第14章 暮るる籬や群青の空
「ハァ…たった二人か。"姫様"は雲隠れってか。見縊られた話だぜ。」
中也は、目の前に現れた与謝野と賢治に向かってため息を吐いた。
「探偵社は事前予約制でねェ。対応が不満なら余所を中りな。」
「マフィアが拠点で暴れるのに予約が要ると思うか?」
「はい!要らないと思います!」
「…賢治の言う通りだよ。暴れたいなら好きにしな。けどアンタは暴れに来たんじゃない、だろ?」
「ほう。何故そう思う?」
「ウチは探偵だよ。訪客の目的位一目で見抜けなくてどうするンだい。」
「…お宅の社長は?」
与謝野は、クイッと上にある監視カメラを指さした。
「そこだよ。」
中也は、監視映像に向かってポケットから取り出した一枚の写真を充てがう。
「うちの首領からお宅等に贈品だ。」
写真には、組合の団員らしき二人が映されて要る。
《此れは…組合の団員?》
「奴等を"餌"で釣った。現れる場所と時間も此処に書いてある。煮るなり焼くなりご自由にどうぞ」
《…何?》
「こんな好機滅多に無えだろ?憎っくき組合に一泡吹かせてやれよ」
会話を聞いていた与謝野が、笑いながら口を開いた。
「成る程、唆られる提案だねェ。けどもっと善い案があるよ。アンタの手足を削ぎ落としてから、何を企んでるのか吐かせるってのはどうだい?」
「そりゃ凄え名案だ。やってみろよ。」
「賢治!!」
「はーい!!」
瞬間、賢治は足元にあるレールを素手で引き抜いた。
「!!矢っ張り伝言人は性に合わねえ。仕事はこうじゃねえとなァ」
「気をつけてくださーい!」
ゴッ!!と音を立てて、レールが壁に打ち込まれる。しかし、中也は目にも留まらぬ動きでそのレールの上に軽やかに乗っていた。
そして、彼が走ったと気付いた頃にはもう遅い。中也の蹴りが、ガードする間も無く賢治を思い切り吹き飛ばした。
隙を狙った与謝野が後ろから斬りかかろうとするが、刃を振りかざした時にはもう時すでに遅し。
中也は、真上だ。
逆さの状態で、天井に両足を着けて立っている。