第13章 The strategy of conflict
太宰から事情を聞き、なまえは紅葉が休んでいる部屋の前の扉に立っていた。
四年前、組織を抜けたあの日。
世話になった彼女にさえ、何も告げずに姿を消したのだ。今更、どんな顔をして会えばいいと云うのだろう。なまえは、震える手を抑えながら、がちゃり、と小さく音を立てて、部屋の扉を開けた。
「……なまえ、」
其処には、四年前となんら変わらない。
優しい笑顔で、優しい声で。名前を呼んでくれる彼女が居た。
『………っ、』
「…此方に来てくれぬか?」
なまえは、ゆっくりと紅葉に近寄る。すると、ふわりと彼女の匂いが鼻を掠めた。
抱き締められているのだと気付くまで、そう時間はかからなかった。
温かくて懐かしい体温に、匂いに、なまえはそっと瞳を閉じる。
「…また一層美しさに磨きをかけよって…これでは中也の苦労が目に浮かぶようじゃ。」
云いながら紅葉は、優しくなまえの背中を撫でた。何度も、何度も。
なまえの瞳から、ぽろり、と大粒の涙が溢れる。
『何も云わず勝手に消えたのに……裏切り者を…恨んでるんじゃ……』
「なまえや……わっちがその様な感情を其方に抱くと思ったのかえ?心外じゃのう…四年前のあの日から、わっちは其方の安否しか気にして居らぬ。其方を愛する気持ちは、昔と何一つ変わっておらぬ故。」
『……如何して』
「わっちにとって其方と鏡花は娘同然……娘の心配をしない親が何処におると云うのじゃ?」
紅葉の言葉に、なまえの涙はもう止まらなかった。
『姐さんっ……、』
「なまえや……幸せかえ?」
紅葉の言葉に、なまえはこくりと頷いた。
『…人を救う側になって初めて、人を笑顔にすることがどんなに幸せなことか知りました…淡い光を信じて進んだことに、後悔はありません』
なまえの言葉に、紅葉は優しく微笑む。
「其方からその言葉が聞けてよかった。同時に安心した…光の中で強く美しく生きる其方を見て。鏡花も、そうあればどんなにいいだろうと。其方に鏡花の希望を見た。」
紅葉は言ってから、なまえの頭を撫でた。
「鏡花を、任せても良いか?なまえ。」
紅葉の問いに、なまえがこくりと頷けば。
紅葉は安心した様に笑った。