第13章 The strategy of conflict
太宰から部屋を締め出された敦は、扉を出てすぐ横で壁にもたれかかっているなまえの姿に驚いた。
「わっ、なまえさん!!?」
『敦君……、』
「ずっと此処にいたんですか…?」
『あ…うん……それで、彼女は目を覚ました?』
「はい、先程。今は太宰さんと二人で話してます。」
『…そう……。』
どこか寂しげな表情するなまえに、敦は心配そうに問うた。
「……心配、なんですか…?マフィアの事情は僕にはよくわからないですけど…彼女は、鏡花ちゃんを…」
『…わかってる。敦君、治から私達の前職のことは、もう訊いた?』
「はい、先程…。太宰さんとなまえさんは…元ポート・マフィア、だと…」
『……そう、四年前までね。』
云ってからなまえは、困ったように笑った。
『姐さんはね、身寄りのなかった私にとって…母のような人だった。自分が、彼女が、マフィアだなんてことを忘れてしまいそうなほど、彼女と過ごした時間は優しくて温かった。』
「………!」
『こんな事、急に話してごめんね。姐さんはね、昔、愛する人と組織を抜け出そうとしたんだって。』
「!」
『まだ先代の頃に、ね。でも、見つかって相手の男性は殺された。』
「…そんな……」
『姐さんは、鏡花ちゃんと自分を重ねてるんだと思う。だからといって、敦君や鏡花ちゃんを傷付けたことは許されることじゃないわ。でも、』
「はい……」
『姐さんが恐れているのは、鏡花ちゃんが不幸になることだけだから。だから、大丈夫。治がなんとかしてくれる。』
そういって、なまえは敦の背中をぽんぽんと撫でた。
敦は思う。どこか寂しげななまえを慰めようとしていた筈だったのに、いつの間にか自分が慰められていた。鏡花のことで激昂していた敦を、まるで宥めるように。背中を優しくさすってくれる彼女の掌に、どうしようもなく癒されて。
「僕……いつも、なまえさんと太宰さんに、助けられてばかりですよね…。」
『当たり前じゃない。仲間なんだから。』
そういって優しく微笑んだなまえの声は、何処までも温かくて。
「……はい……」
敦はただただ、溢れてきそうな涙をぐっと堪えながら。弱々しく返事をした。