第1章 君の相手は俺しかいない
美しい身体のラインが月明かりに照らし出され、その姿はまるで神話に出てくる女神のような美しさである。
長い髪がサラリと流れて、月の光を受けて輝いた。
(あれは…)
ガタンと思わず立ち上がった承太郎は、手に持っていたグラスを落としてしまった。
カシャン、とガラスの割れる音が響き、女性の肩がびくりと震える。
「…どなた?」
くるりと振り向いた彼女と承太郎の距離は、数メートル程度しか離れておらず、間に視界を遮るような障害物も無い。
だが、彼女はキョロキョロと辺りを見回し続けていて、承太郎の姿が見えていない様子だった。
「…驚かせてしまってすまない」
承太郎は歩み寄ると、彼女の目の前に立った。
だが、彼女の顔が承太郎の方を向くことはなく、その細い首を少し傾げているだけだった。
そこで初めて、承太郎はあることに気が付いたのだ。