第2章 酒は飲んでも呑まれるな
「鞠さん、鞠さん起きてください。帰りますよ」
なにかぼんやりと聞こえる気がするが、
意識が朦朧として返事をするに至れない。
「んー」とか、「あー」とか、無意味な母音を発音し続けていると、だんだん目が覚めてきた。
「鞠さん、立てますか」
「んー?加々知君……?」
ゆっくりと目を開け、声の発生源だと思われる方に手を伸ばすと、思ったよりもずっと冷たい手に掴まれた。
「あーごめん、寝てた」
「知ってます。いいから早く起きてください。もう帰りますよ」
これだけ起きなくても根気強く起こしてくれるあたりは流石真面目だと思った。
これ以上グダるのは申し訳ないので、
気だるい体に鞭を打って無理矢理体を起こした。
「ごめんなさいね、こっちから誘ったのに」
一息ついてから立ち上がり、財布を取り出すと
「私が支払います」
と止められた。
「加々知君、忘れてるでしょ。
手伝ってもらったから今日は奢りに来たのよ」
「確かにそうですが、女性に勘定をさせるのはいささか気が引けます」
「後輩はね、黙ってはいって言っていればいいのよ」
「それ、黙ってないですよ」
彼は納得がいかないようだったが、
すぐに会計を済ませてしまった。
「まあちゃんまたいらっしゃいね~」
「もちろん!ご馳走様~」
おばさんにヒラヒラと手を振って店を出た。