第2章 酒は飲んでも呑まれるな
「ふぁ~、もー飲めない!ぎぶぅー」
顔を真っ赤にしてだらしなく机に突っ伏している私を横目に、彼はまだ飲み続けている。
「加々知君、お酒に強すぎない?」
「よく言われます」
一切酔いを見せずにそう言ってのける彼を
じっと見つめていると、
ちらりとこちらを見て「なんですか」と言った。
「ほっぺ触っていい?」
突然の私からの申請に驚いたような顔を見せるが
「嫌です」
はっきりと断られてしまった。
「あまり表情が変化しない人って、
表情筋を殆ど使っていないって事だから
ほっぺが柔らかいらしいのよ」
「だから嫌ですよ」
「うぇ~?じゃあかまってよー」
酔いすぎてストレートなかまちょをする私を、彼はガン無視して飲み続けている。
「加々知君だっけ?
まあちゃん、酔うといつもこうでね
朝まで寝てるなんてこともよくあるんだよ」
忙しそうにせっせと動き回るおばさんが
片手間に話しかけた。
おばさんが優しいから全然気が付かなかったけど、よく考えたらとんでもない迷惑客だ。
「鞠さんはいつもは一人でここに?」
「そうだねぇ。ここに来る時って、
だいたい私に相談する時だから一人だし
それ以外は昔からの友人とかで、
同僚を連れてきたことは一回もないねぇ」
「そうですか」
当の私はおやすみモード。
船漕ぎをしながら夢の世界へ移動中だ。
「それと、飲みたいくらい飲んだら
そのまま帰ってくれて構わないからね。
まあちゃんはこっちで何とかするよ」
「いえ、そういう訳にはいきませんよ。
一応先輩ですし」
おばさんはにっこりと笑って、
「そうかい、あんた良い奴だねぇ。
それじゃあまあちゃんは任せたよ」
と言った。
「引き受けたのはいいものの、
どうしますかねぇ」
加々知君は誤魔化すようにぐっと酒を飲んだ。