第2章 伝え奏でる (モーツァルト)
軽快なメロディーを綴り、心地良い最後の和音がすうっと部屋に響き、消えた。夜の風が窓の外で応えるように木々を揺らした。
俺は演奏を終えた手を膝に降ろし、視線を玲の方へ向けると、花が咲いたような満面の笑みがあった。
「ふふ、今日のは可愛い感じだね。あ、何て言うか……心が踊るような曲!!」
「無理に感想を言葉にしなくて良いよ」
一息つくとピアノの蓋を静かな手つきで閉じた。
玲はスツールに座る俺に歩みよりまた楽しそうに微笑んだ。その笑顔だけでじゅうぶん伝わるのに、彼女は気づいていない。
「だって、いつも"よかったよ"じゃ伝わらないかなーって。食レポじゃないけど……」
「ショクレポ……?まあ、だいたい言葉で表せるようなら、本当の感動とは言えないと思う」
立ち上がって少し距離を詰め、素っ気ない言葉とは違い、玲の手を優しく取った。
「それで?明日、休みなんでしょ?」
「うん!お休み貰えたからそれを伝えようと思って。セバスチャンから聞いたの?」
「まあね」
答えながらセバスの言葉を思い出していた。
──玲は口には出してませんがこのところ疲れているようなので、"お二人でゆっくり"過ごされてはいかがでしょうか?