第3章 罠 (テオドルス/BD記念)
「ちょっとテオ?そんなコワーイ顔しないでよ」
「さっさと続けろ」
ふっと笑みを漏らすと、このたちの悪い男は二人の手首に紐を巻き付け、端を重なる手のひらへ押し込んだ。
「ね、ねえ、もう離してもいい……?」
「いいよ、でも……魔法のアトでね?」
言うが早いか玲の白い手の甲に、口づけが落とされた。
戸惑いの声をあげる彼女が手を離そうとしたが、叶わない。その原因は、二人の手首の紐は何周か回ったあと、先程はなかった結び目を作っていたからだった。そのすき間は指一本入るかどうかといったところ。
「これじゃ、今夜は俺と一緒に寝るしかナイね?」
再び繋がれた手を俺に見せつけるようにしてくる。思わず眉に力が入ってしまった。
紛らわすように、後ろのテーブルにもたれ掛かった時、かごに入った果物が目に入った。その中のリンゴを手に取り果物ナイフで無造作に一口サイズに切り取った。
「おい、駄犬……この万年発情小説家と一晩共にするつもりか?」
「テ、テオまでそんな……!冗談はやめて」
「俺はホンキだけど?」
リンゴの一欠片を、彼女の口へ押し込むと、残りのリンゴを自分も一かじりした。
戸惑いながら咀嚼するこの白雪姫の耳元に唇を寄せて囁く。
「助けて欲しいなら助けてやらないでもない」
「ぁ……、お願い外してほしい……」
身動ぎして耳まで紅くした玲に最後に名前を呼ばれ、答えの代わりに口の端を上げて見せた。
「アーサー……今回はお手上げだ」
「アレ?思ったよりあっさり諦めちゃうんだ?」
「ああ、お前への酒代の方が安そうなもんでなあ?」
果物ナイフで紐を切り、自由となった彼女の手をとった。
「あっ……」
面白くないようにため息を付いて肩をすくめたアーサーに気分を良くし、より一層リンゴのように赤く染まる駄犬の頬に大きな満足感を得た。
「さあ、助けた礼は高くつくぞ、玲」