第5章 子ども化
ペトラには明るく言って台所を出てきたものの、は廊下を歩きながら、しゅん、と肩を落とした。今日ここに来てから、自分はまだ何もしていない。むしろ皆に無用な気を使わせてしまっているようで、申し訳なかった。
リヴァイを探して廊下を歩いていると、ふとした段差に躓いて、はべちゃりと転んでしまった。全身に感じる鈍い痛み。
(…カッコ悪い…。大人だったらこんな事ないのに…っ)
どこもすりむいてはいないが、床に倒れた衝撃と自分のふがいなさがこみ上げてきて、鼻の奥がツンと痛くなる。
だがそこで、突然ひょいっと身体を持ち上げられた。
「おい」
すぐ目の前にリヴァイの顔が現れる。その顔を見た途端、の中で我慢の線が切れた。
「せんぱい~…」
じわーっ、との大きな瞳に涙が盛り上がってくる。
「なんだ、どうした。どこか怪我したのか?!」
の様子を見て、リヴァイは狼狽する。
は普段、人前で涙を見せる事は絶対にないのだが、リヴァイの前では安心しきっているためかよく泣いてしまうのだ。
「わ、わたし、何の役にも立ってなくて…」
の言葉に、リヴァイはほっと息を吐く。とりあえず、怪我はしていないらしい。
リヴァイは、右腕に腰かけさせるようにしてを抱くと、左手で涙をぬぐってやった。
「そんなに長く効果がある訳じゃないって、あのアホメガネが言っていただろう。今は休憩だと思って楽にしていろ。お前は何も気にしなくていい」
そう言ったついでに、のふっくらとした頬をぷにぷにと押してやると、思った以上に柔らかく、リヴァイはしばらくその感触を楽しむのに没頭した。
「……先輩、何か私にご用があるんじゃ…?」
頬を押し続けていたリヴァイに、たまりかねてが問いかける。涙はすっかり止まったようだ。
「…あぁ。少し書類の整理をしたい。仕分けを手伝ってくれないか」
書類の仕分け作業であれば、力もいらないし怪我をするおそれもない。は、ぱあっと笑顔になると首が外れるのではないかと思うほど大きく頷いた。
それから二人は、夕食の時間になるまで書類整理の作業を行ったのだった。