第11章 私とパンダと空のむこう
相変わらず仕事がツラい。
この書類できてますか?って、それはお前がやるって先週言ってたんじゃないんかい。
相手の確認ミスを私のせいにするな。労働量に見合った給料を出してから言え。
ああくそ、セクハラオッサンが来た。ボディタッチすんな。禿げろ。
ストレスと疲労は雪のように降り積もり、私の心は常に真冬だ。以前はその雪を融かしてくれた太陽が居たけれど、今はもう。
本当に私は毎日毎日、何のために生きてるんだか。
それでも仕事があってよかったかもしれない。
家にいると彼を思い出してしまうから。
彼の座っていた座布団。彼が寝床にしていた毛布。彼が立っていた台所。
今でも家に帰ると、白黒の毛玉がのすのすと歩み寄って来てくれるんじゃないか。そんな錯覚を覚えてしまうことがある。
彼が居なくなってから1年あまり。思えば彼と暮らした時間よりも、彼と別れてからの時間の方が長くなってしまった。なのに私の体ときたら、いまだに彼のいない生活に慣れてはくれないのだ。
一体いつになったら、何も感じずに玄関扉を開けることができるのだろう。
彼のように引っ越しをしてしまおうかと考えたこともある。でもどうしても踏ん切りがつかなかった。
彼と違って私はいちいち臆病で、引っ越しもできなきゃ転職もできないのだ。ハア。