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ただのパンダのお引っ越し

第11章 私とパンダと空のむこう



『〜国際空港行き、8時30分発、212便は、ただいまお客様を機内へとご案内しております。搭乗口5番からご搭乗下さい』

アナウンスが流れ、心臓がドキンと跳ねた。
ギクシャクと椅子から体を起こし、顔を上げる。
と、一面のガラスの向こうに、大きく翼を広げた飛行機が、飛び立つ時を今か今かと待っているのが目に入った。

機体をまじまじと見つめて、おや?と私は目を丸くした。
いつの間にこんな便ができていたのだろう。ポ○モンの描かれた飛行機なんかは聞いたことあるけれど、私の乗る飛行機の胴体には、大きな大きな…パンダのイラストが描かれていた。


「…フッ、あはははは」

緊張に強張っていた顔を崩して、私は笑いだしてしまった。

こんなところまでもパンダ。まったく私の運命ときたら、パンダの神様に握られているに違いない。

バカらしいなあ。
あのパンダの絵、なんだかマヌケな顔してるし。
そうそう、伊豆くんが昼寝してる時の顔に似てるかも。
ああ、早く会いたいな。パンダの絵の飛行機に乗ってきたんだよなんて言ったら、きっと彼は嫉妬して、プンスカしながら私にしがみついてくるに違いない。わかってるんだから。

私は窓ガラスの前に立って、私を乗せる飛行機と、その先の青空を見つめた。
空の向こうでは、彼もまた同じように空を見上げて、今にも私が来るんじゃないかと笑顔を浮かべているんだろう。
きっとそうだよ。



上着のポケットをグッと手で押さえつけた。ポケットの中には、薄緑色の封筒を入れてある。


「なんにも気に病むことないか…。だってただちょっと、お引っ越しをするだけのことだもん。そうだよね、伊豆くん」


目を見開いて前を見据え、背筋をピンと伸ばして、そうして私は力強く、大きく足を踏み出した。


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