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ただのパンダのお引っ越し

第2章 飼ってあげてもよくってよ!



とっておきの紅茶を淹れて口に含むと、少し気持ちが落ち着いた。

時刻は午前7時少し前。パンダ男は毛布を腰に巻いてニコニコと床に座っていた。

「つまり…こういうことなのね」


パンダ男は元々、G県の山奥深くに1人で住んでいたらしい。

ある時人間の落としたラジオを拾い、止野動物園のパンダ誕生のニュースを聞いた。
パンダが人間から住処と食べ物と医療を与えられて暮らしていることを、彼はその時初めて知った。パンダがいかに人間に愛されているか、大切にされているか。彼はとても驚いた。

自分も人里に行けばそんな生活ができるのではないか?
意を決したパンダ男は山をくだり、町に出た。

とはいえ動物園の所在地もわからない。
パンダのままでは人語を喋れないので人間の姿になり、その辺の人に話しかけたところ、悲鳴を上げて逃げられた(多分おそらく全裸で近寄ったのだろう)。
当てもなくさまよい歩き、何度か人に話しかけたが、逃げられたり怒鳴られたり、いきなり殴られたこともあったとか。

やがて疲れと空腹の限界をむかえたパンダ男は、パンダの姿になってから道端に寝転がると、そのまま気を失ってしまったそうだ。


次に目を覚ました時は、体に温かいお湯がかけられていた(私がかけたシャワーだろう)。
見ると美しい人間の女(よしよし、いいぞ)が自分の体を撫でてくれている。また迫害されるのでは…と一瞬思ったが、「キレイにしてあげる」と言われたので黙って従った。

そのうち何だかわからんが飲み物までくれて、寝床も用意してもらえた。
こうしてパンダ男は、人里に降りてから初めて、安心して眠ることができた…という訳だ。

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