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ただのパンダのお引っ越し

第8章 飼主失格



「私ね、反省したんだ」
伊豆くんの脱いだ服をたたみながら、そう言った。

「ん?反省?何がだ?」
伊豆くんはいつものジャージに着替えていた。

「ずうっと、靴買ってあげるの忘れてたな、って」
「なんだ、そんなことか。別にオレは気にしてないぞ」
「私は気にしたよ。なんていうか…飼い主なんだし、外に出られるのは私だけなんだから、私がちゃんと面倒見てあげなきゃいけないのに。飼主、失格かなあって」

私の声音が暗くなったものだから、伊豆くんは黙って私を見つめた。
私は少し俯いて顔を隠した。だって泣きそうなんだもん。

「あと、私が外にいる時って、伊豆くんと繋がることって全然できないんだなあ、って。今ってさ、ネットとかSNSとか便利でさ、いつでも誰とでも連絡が取れて、それが当たり前って感じだったから…。伊豆くんとだけは、それができないんだって思うと…」

言葉を最後まで紡ぐことはできなかった。
なぜって、伊豆くんが私に抱きついてきたからだ。

彼は私の背中に手を回しながら、もう片方の手で私の頭をヨシヨシと撫でた。

「桃浜がいつもオレを撫でてくれると、オレは気持ちよくなって、安心するんだ」

だから桃浜も安心してくれ。

と言いたげに、伊豆くんは何度も何度も手を往復させた。

ぜんたい伊豆くんは言葉が不器用だ。繊細な話なんかできないから、すぐに行動で示す。

本当は、ちゃんと色々考えるべきなのかもしれない。私たちのこれからのこと。
でもこうして伊豆くんに包まれて撫でられていると、私はまったく彼の思惑通り、悩むことを忘れて彼に体を預けてしまうのだ。
まったく、パンダの癒やし効果たるや凄まじい。

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