第8章 飼主失格
太陽もすっかり落ちて真暗い帰り道。駅から離れた家路は街灯も少なく、ひとりで歩くのはいつだって少し寂しい。
でもこの日の私はゴキゲンだった。片手に提げたショッピングバッグは白くて大きくてツヤツヤで、夜道のわずかな光を集めて、華やかに輝いていた。
通勤カバンから鍵を取り出し、軋む玄関ドアを開けると、白と黒のかたまりが勢いよく私に飛びついてきた。
「ギエーッ!」
ズシン、と地鳴りがして私はパンダの下敷きになる。
重い!
何度も言っているが、パンダ時の伊豆くんの体重は120kgオーバーである。なぜ彼はそれをわきまえて行動できないのか!? 謎だ。
「伊豆く…重い!どいて!」
私がそう言うと、伊豆くんは渋々といった様子で私の上からは退いたが、今度は私の足にしがみついて離れなかった。
「なに…なんなのお?」
その後、120kgをなだめて、すかして、部屋の中まで入るのはなかなか大変だった。
ーーー
「だって…なかなか帰ってこないから、何かあったのかと思ったんだ」
人間の姿になって夕飯をつつきながら、伊豆くんはそう言った。
今日のメニューはアラビアータのスパゲティ。私がお風呂に入っている間に麺を茹でてくれたので、茹で加減はちょうどいい塩梅だった。
「ちょっと買い物してたら夢中になっちゃって…。ごめんね、ご飯食べないで待っててくれたのに」
「買い物って、あの紙袋か?」
伊豆くんは床に置かれたショッピングバッグを指さした。
「そうそう。ふふ、きっと伊豆くんの喜ぶものだよ」
ふうん?と伊豆くんは首をかしげ、私はニヤニヤしながらスパゲティを平らげたのだった。