第8章 理解が困難なアイツと私
私の視線を受け止めて、少しだけ考える素ぶりを見せたジャン。
「まぁ……、用は、ないな。」
そう呟くと、一口サイズにパンを千切り、そのままの手で口に放り込んで「ん、いつも通りだな。」と頷いた。
「だったら……」
これからは部屋に来ないでさ。
前みたいに、調査兵団の活動の時間に会えばいいんじゃない?
ホッとしながら、そう言おうとした私の言葉は、ジャンの声に掻き消される。
「まぁ、どうせまた来ることになるんだし、別に今日きて、ここで飯食っててもいいだろ?」
「へ……?」
何とも間抜けな声を出した私に、ジャンはニヤリと笑った。
この顔はよからぬ事を考えている顔だ。
と直感で気付いても、私にはどうする事も出来なくて。
「……もしかしてお前、あれで終わりだと、思ってんのか?」
「……な、にが……?」
クツクツと、喉を鳴らして楽しそうに笑うジャンを見て、私の顔が引き攣る。
……まずい。
何がまずいのかは分からないけれども、物凄くまずい気がする。
次に何が起こるかは分からない。
けれど、その衝撃に耐えれるように、準備しておかなくては。
構えきった私に、ジャンの手が伸びてきて。
反射的にビクリと震えてしまう。
が、その手は意外にも、驚くほど優しく、私の頭を撫でた。
「……んな、怯えんなよ。取り敢えずはアレだ。飯食え。」
ホラ。と言うように、小さく千切ったパンを、私の口に押し付け、机の上に置きっ放しにしている袋を、顎でさす。
私は恐る恐る、といったように、押し付けられたパンを口に含み、空になったジャンのコップに水を注いだ。
「最近は、終わりも早ぇーんだし、ゆっくり楽しまねぇと損だろ。せっかく飯も飲みモンもあるんだしよぉ。」
「……うん。」