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【YOI】銀盤の王と漆黒の王子【男主&勇ヴィク】

第2章 正妻と愛人の密約


その年。
初の師弟直接対決として日本で行われたGPFで、勝生勇利はついに自身の目標でもあったヴィクトル・ニキフォロフを僅差で破り、優勝した。
コーチでもあり『リビングレジェンド』のヴィクトルを下した勇利のニュースは、瞬く間にスケート界を席巻し、以降の大規模な世界大会での対決の行方について様々な憶測が飛び交い始めていた。
しかし、優勝した当の勇利は表彰台で殆ど笑顔を見せる事はなく、「まだ、試合はありますから」と、早くも先の大会へと気持ちを切り替えていた。
名実共に日本の真のエースとなった勇利の事を、いつしか『漆黒のモンスター』と畏怖を込めて呼ぶ者も現れ始めていた。

勇利はGPF終了後2日だけ実家の長谷津に里帰りすると、ピーテルに戻っていった。
GPFを会場で観戦していた純は、その時に勇利と幾度か言葉を交わしただけで長谷津には行かなかったのだが、それから間もなく意外な人物から密かに連絡を貰っていた。

「誰にも内緒で会いたい。勇利にも、お前の『ヒゲ』さんにも」

そっけないメッセージだったが、そこに込められた想いの強さを即座に感じ取った純は、現役最後のコーチで今は大阪で同居している恋人の藤枝に「ちょっと火急の用が出来たから、数日だけ京都に戻るわ」と告げると、実家の伝手で町屋の一室を借り切って、そこにヴィクトルを呼び寄せた。
「凄いね。お前に貰った名刺と『上林』の名前言ったら、あっさりフリーパスだったよ」
「京都限定やけどな。ホテルよりは誰かに見つかる心配がないから、ちょっと不便かも知れへんけど堪忍な」
「ううん、こっちこそ無茶を聞いてくれて有難う」
実家が代々続く京都の老舗というのもあって、一家の末っ子である純も、京都ではそれなりに名前と顔が知られており、滅多に使わないが多少の融通も利く。
「…ロシアナショナルまで日も短いのに、勇利に嘘吐いてまで僕に会いに来た理由は?」
純に問われて、ヴィクトルは一瞬だけ唇を引き結ぶ。
GPF終了後、勇利に「日本での仕事を残してたの忘れてたから、先にロシアに戻っていて」と、ヴィクトルは単身極秘に純の待つ京都へ向かった。
それは、これからの自分の為にどうしても純の協力が必要だったからである。
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