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【YOI】銀盤の王と漆黒の王子【男主&勇ヴィク】

第1章 プロローグ


リンク裏で出番を待つヴィクトルは、そこに純を呼び寄せると、いつも彼と勇利を巡っていがみ合っている時とはまるで異なる穏やかな表情を浮かべた。
「俺のワガママ聞いてくれて、本当に有難う」
「アンタからワガママ取ったら、スケート上手な事しか残らへんわ」
珍しく殊勝な顔で謝辞を述べてきたヴィクトルに、純は照れ隠しも含めて減らず口で返す。
「ヴィクトル・ニキフォロフ現役最後のEXは、あっと驚く初公開!この為にEXのリハも、報道陣や勇利すらシャットアウトしたからね♪」
「こういう時は、リビングレジェンド様の特権使い放題やな」
「──最後のね」
その語尾を聞いた純は、様々な感情に目を細める。
「そんな顔しないでよ、何か調子狂う。俺、この決断をした事には本当に後悔してないんだ。ただ、しんみりは嫌だから笑って楽しく終わりたい。その為にお前には本当に世話になったし、迷惑もかけた」
「…別に。これで僕の振付師としての名声が上がる思うたら、安いもんや」
ここに至るまでの日々を脳裏に反芻させると、純は一瞬だけ眉を顰めたが、すぐその後で口元を綻ばせた。
「俺は、勇利やお前に会えて、昔以上に心からスケートを楽しいと感じるようになったんだ。こんな気持ちのまま現役を終えられるのは、きっと幸せな事なんだと思う」
「…」
「コラ、さっきも言ったろ。しんみりはなし。かつてのお前と一緒だよ。俺が終えるのは競技だけ。勇利のコーチもスケートも、これからまだまだ続けるんだから」
感傷的な表情を隠せずにいる純の鼻を、ヴィクトルの長い指が軽く弾く。
そうしている内に会場のスタッフから声をかけられたヴィクトルは、待機場所に行く前にもう一度だけ純に向き直った。
「ねえ、アレやってよ。お前が良く演技前に勇利達からかけられる言葉」
「アンタに?」
「そう。アレ、面白そうだから一度やってみたかったんだよね」
「何やねんなもう…デコ、『あんじょうおきばりやす』」
「ヘエ、オオキニー♪」
怪しい日本語で嬉しそうに返したヴィクトルは、今度こそ純から背を向けるとリンクサイドへ向かう。

その後ろ姿を見送りながら、純は改めてスケート界の1つの時代の終焉をひしひしと感じていた。
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