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【YOI】銀盤の王と漆黒の王子【男主&勇ヴィク】

第4章 そばにいる、そばにいて。


「EXのプログラムも残すところ僅かとなりましたが、ついにここで登場です。今大会をもって現役引退を発表した、ロシアのヴィクトル・ニキフォロフ」
シンプルな薄紫色のシャツに黒のボトムという出で立ちでリンクに現れたヴィクトルに、会場からひと際大きな拍手と歓声が上がる。
「今季GPSをはじめ、愛弟子である勝生勇利との直接対決の数々は、我々を熱く興奮させてくれました。そんな彼の現役最後のEXは、彼自身のこれまでの競技生活への想いとメッセージを込めた、という初公開のプログラムです。タイトルは…日本語で『ありがとう』」
たどたどしい日本語で告げられた後、リンクの中央で眠るように蹲っていたヴィクトルは、ピアノの前奏に合わせてゆっくりと身体を起こした。
(体制が変わったばかりの混乱期のロシア。あの頃の俺は、人よりちょっと踊りとスケートが上手なだけの、痩せっぽちの男の子だった)
そのような中、とある民族舞踊の楽団から声をかけられた少年は、家族や生活の為にも応じるべきかと考えていたある日、何気なく通っていたリンクでヤコフと出会った。
『お前は、スケートの方が才能がある。このワシが、お前を世界最高のスケーターにしてやろう』
生活の保障をはじめ、その他断る理由もなかった当時のヴィクトルは、はじめは半信半疑でヤコフの誘いを受けたのだが、程なくしてすっかりスケートの魅力に取りつかれていった。
『ほら見て、ヤコフ!俺、上手に出来たでしょ?』
高さと幅を誇る見事な3Aを披露したヴィクトルの表情が、当時の彼と重なって見えたヤコフは、そっと帽子の角度をずらす。
(俺が滑れば、皆が驚いて喜んでくれる。だけど…いつからか俺は、そう振舞う自分に心の何処かで疲れていたんだ。そんな時に現れたのが…)
高速スピンの後で再び滑り出したヴィクトルは、少しだけ顔を明るくさせるとステップを踏み始めた。
『びーまいこーち!ヴィクトル!』
ソチGPFのバンケで受けた、思いもよらぬ熱いラブコール。
(この俺がコーチ?何言ってんのこの子?って最初は思ったよ。でも一緒に踊って笑っていく内に、お前とならって気になってきたんだ。なのにいざ日本に行ったら、お前はすっかり忘れてて…)
勇利と出会ってからのヴィクトルは、それまで自分が周囲に与えていた以上のサプライズを、彼によって味わう事になったのだ。
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