第102章 【番外編】ご褒美
ソワソワしてしまって朝の5時には起きてしまった。
いつもすることと変わらず、支度をして、勉強して、少しだけ髪や衣服を整える。
ただ会うだけというのに、緊張して吐きそう。
玄関が開く、音が、する。
勢いよく走って飛びついて、それを受け止めてくれる自分よりも大きくて細くも力強い身体。
胸に埋もれると微かに煙のにおいと彼のにおいがする。
身体の中から満たされて勝手に顔がにやにやしてしまう。
細い腰に私の腕も回してぎゅって抱き締め合う。
「おかえりなさい…!!」
「ただいま…」
「お疲れ様でした…」
「……ああ…」
そのまま、何分とそうしていただろうか。
たった数日のお別れだったのに、本当に嬉しくて。
時間の感覚がわからなくなるくらいだった。
ゆっくりと離れて荷物を持つのを手伝って、お部屋までついて行った。
お疲れだろうし、一緒にいたい気持ちを抑えてお部屋から出ようとしたら、手首をぎゅっと引かれて寝具に座らされた。
覆いかぶさるように繋心さんが抱きついてきて後ろに倒される。
「…っ…!!!」
照れくさいのと嬉しいのとで息が詰まってしまう。
そのまま身動きも取らせて貰えず、広い背中にそっと腕を回すことしかできない。
心臓がドキドキする。
何か、何か、声をかけようか少し悩んだけれど、掠れた震えた声で聞こえてきた
「最後まで、勝たせたかった…」
という一言に、そのまま黙っていることにした。
より強く腕を回してみる。
どういう表情をしているかは見えないけれど、本当に珍しい弱った姿に、どんどんと母性本能のようなものが溢れてしまう。
何歳も年上の頼れるお兄さんなのに、こんなこともあるんだと思うと、可愛くて仕方がない。
私には、スポーツはわからないし、何か一つのことに夢中になったこともないし、だから、繋心さんの気持ちも半分すらもわからないけれど、少しでもこの時間で何かが消化されたなら嬉しいな、なんて密かに思った。
私に出来ることはこのくらいしかないから。