第4章 課外授業【マカ・ソウル編】
「お前は実験台にされたんだ」
「実験台? 何の?」
「狂気のさ。……お前で20人目だ」
ソウルは背筋がゾクッとした。
「他の19人は……どうなった?」
「……みんな死んだよ。狂気に負けたんだ。恐怖から逃げるように、みんな自ら死を選んだ」
思い描いた通りの最悪な結末。という事は……自分も!? 更に ソウルは青ざめた。
「お前は運がいい。……狂気に選ばれたんだからな」
「選ばれた?」
「あぁ、そうさ。お前には元々、強い狂気の断片があった。思い返してみろ、自分の過去を」
小鬼から眩しい光が放たれ、ソウルは反射的に目を瞑る。そして、目を開けると……
「ここは……」
忘れえぬ場所。ソウルが自分に失望した、あの演奏会だった。
「やめろ!! やめてくれっ……!!」
ソウルの声は誰にも届くことなく、自身が奏でる悲しいピアノの旋律だけが会場に静かに響いていた。
「やっぱり、弟さんの才能を持ってしても、お兄さんには敵わないわね」
「そうね。お兄さんが凄すぎるもの」
会場から聞こえてくるヒソヒソ話。ソウルは自分の手を見つめ、ギュッと固く握り締めた。
才能が無いのは自分が一番よく分かっている。幼い頃から耳にしてきた兄のヴァイオリンの音色。自分も大きくなれば、兄みたいに綺麗な音が出せると思っていた。
けれど、彼の音は【天性】のモノ。いくら自分が頑張っても、到底奏でる事が出来ない音。
大きくなるにつれ、明確になる差にソウルは嫌気が差し始めていた。