第1章 一人ぼっちの職人と新たな武器
「よし、これで……」
── ズシッ……
さっきのものとは、比べ物にならない重圧が体を押し潰した。火ノ丸は、直ぐ様 茂みに身を隠した。
「(何なんだ……何が来た!?)」
周りの木から鳥たちも声を上げ、逃げ出していく。
「もっと力を……でなければ、あの女の恐怖から抜け出せないぃ……う、あぁああぁあ!!!!」
のっさり歩いてきた人物は、腰下まで伸びた黒髪に着物を着て、腰のわきに刀を一本挿している。顔は見えないが、声は男性のよう。
「(……侍、か? にしても、なんつー禍々(まがまが)しさだよ……これが、"狂気"ってヤツか……)」
"狂気は感染する"、そう彼は聞いたことがあった。実際、狂気の波長により力を欲したり、見えない何かに引っ張られる感覚に陥ったり、それを体感し、聞いたことは本当だったんだと火ノ丸は分かった。
「火ノ丸ー! 火ノ丸ー!」
「ん? こ、この声は!?」
「(あのバカ!!)」
遠くから、火ノ丸を呼ぶ時雨の声が近づいてくる。
「い、今はダメだ!! ……に、逃げなければ!!」
闇の中に その人物は同化し、姿を消した。と同時に、その場も和らいだ空気に変わっていき、鳥たちも戻り、穏やかな雰囲気が帰ってきた。