第1章 一人ぼっちの職人と新たな武器
"サヨナラ"と彼が口にする度、"殺して"としか聞こえない。
時雨は悩んだ。……私は【人間】だ。喜怒哀楽の感情を持ち合わせている。そう簡単に、命あるモノから命を奪うことなど出来ない。
完全に戦意喪失。
手にしていたクナイを収納場所に収め、時雨はゆっくりと瞼を閉じた。
「くくく………馬鹿なヤツ。行け! とどめを刺せ!」
黒いマントを羽織った長髪の男は小刻みに肩を揺らした。草木に身を隠し、人形に指示を出していたのも、この男である。
「本当、馬鹿なヤツ」
時雨は瞬時に移動し、男の目の前に立った。
「な、なぜだ!? なぜ……」
「まったく、手間の掛かることを」
張り巡らせた緊張の糸。その中は、時雨のテリトリー(領域)なのだ。そこの枠外にいた場合、相手に緊張が伝わらず、油断しているため、相手の魂も難無く感知できる。
だが、敵が枠内にいた場合、緊張の糸が伝わり、今回のように自分の身を隠すことに専念する。テリトリーを作ることにより、敵が何処にいるか、何人いるかも、事前に予測出来る訳だ。
そして、極め付けが戦う意思を棄てる。相手が自ら攻撃してくる場合はリスクしかないが、何かを遠隔操作して攻撃してくる相手には、油断を生み、効果覿面(てきめん)だ。
「魂感知が出来れば、アンタの居場所を割り出すなんて容易いこと」
「そ、そんな……」
「……命を持て遊ぶヤツは許さない、絶対に」
時雨から漆黒の煙が立ち上る。ゆらゆらと、男を追い詰めるように……。
「ま、待て! は、話せば!! ヒィッ!! お、鬼!! 悪魔!! 鬼神」
「……五月蝿(うるさ)い」