第3章 砂漠の月151~172【完】
172【完】
卒業式翌日、卒業生は大学が始まるまでは春休みという状態だが月子はまだ在学中の為、学校に居た。
上級生が居なくなり空っぽになった教室のある学校は、どことなく寂しいと感じながらも春からは同じ敷地にある大学に通うからさすがに教室への迎えはないだろうが登下校は一緒である。
月子はそう思い直して真面目に授業を受けると部活動もないので荷物を纏めて席を立った。
今日からは晴久が教室に迎えに来ることもないと思っての行動だったが、不意にざわめきが大きくなった教室の入り口を振り返って目を見開く。
「よ、終わったか?」
「晴久さん?!」
入り口に寄りかかって視線を集めていたのは昨日卒業したはずの晴久で、私服姿だったがそこに居ることに驚き、声をあげて駆け寄るとよしよしと撫でられて首を竦める。
何かあったのかと不安に思って見つめれば、心配するようなことはないと笑って返されて荷物を持っていない方の手を掬い取られて繋ぐと歩き出す。
晴久が月子を連れて辿り着いたのはいつかの温室だった。二人で入ると花壇には芽吹き始めた花芽と咲き誇る春の花で溢れ、月子は目を輝かせる。
「綺麗ですね!」
「そうだな」
手を引かれて一歩後ろを付いて歩いていた月子は、温室に入ると花に釣られる様に晴久の前を歩き手を引っ張る。
クスリと笑った晴久は手を引かれるままに奥に進むと直ぐに突き当たりに辿り着いた。この温室を管理している人間には、晴久から少し場所を借りることを伝えてあった。
奥の正面の花壇には春の花が咲き誇り、どこから入ったのか蝶がひらひらと舞って花の間を渡り歩いている。
晴久は月子を促して休憩用にか設置されていたベンチに座らせると自分はその足元に跪き、月子の左手を持ち上げて見上げた。
なかなかないシチュエーションに月子が驚き目を瞬かせながら晴久を見下ろすと、少しだけ緊張したような表情の晴久が左手を持ったまま静かに口を開く。