第3章 砂漠の月151~172【完】
「まだ気が早いとは分かっちゃいるんだが、次の一年はどうしても同じ校舎には居られないからな。本当は昨日言おうと思ったんだが、予想外なことに時間取られちまった」
「昨日は晴久先輩、すごかったですもんね」
「全部断ったけどな。まぁ、それは良いんだ。それで、何が言いたいかっていうとだな……」
昨日の卒業式、予想通りと言うべきか婆娑羅者はそれはそれは大量の生徒に誰もかれも埋もれていた。元就は来るものを容赦なく叩き捨て、晴久もそこそこきっぱりとお断りして逃げ切ったが気のいい人間はボタンなど色々持っていかれたらしいとは夜に聞いた話だ。
若干遠い目になった晴久に苦笑しながら頷いた月子だが、気を取り直した晴久が少しだけ口籠った様子で言葉を途切れさせたのに首を傾げる。
「月子が好きだ。この先もずっと、一生お前の横は俺の物だって言いたい。だから、高校卒業したら俺と一緒になってくれないか?」
「え……」
「俺としては今すぐでも良いんだけど、月子は多分そういう感覚はないだろうから。高校卒業でも早いと思うかもしれないけど、ダメか?」
晴久の言葉と共にすっと左手の薬指に金属が滑る感触がして、月子は反射的に胸元を握りそこに指輪があることを確認すると目を見開く。
ピタリと収まったそれはエンゲージリングと言うには少しだけシンプルだが、今胸元で握っている指輪と重ねると相乗効果がありそうなデザインの指輪だった。
月子は混乱しながらも必死に晴久の言葉を反芻し、理解しようとしていた。もしかしたら勘違いかもしれないと戸惑い、しかし誤解しようがない言葉と行動。極め付けにダメかと問われて反射的に首を横に振ると眦からぽろぽろと涙が零れ落ちた。
晴久が困ったような笑みで手を伸ばし、落ちてくる雫を拭うが徐々に増えるソレは指で拾い上げる程度では治まる様子はない。