第3章 砂漠の月151~172【完】
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大晦日、予め織田から毛利と尼子も共に年越しをと誘いがあったらしく、数日前に大晦日は家族で織田家に行くぞと言われた。
月子には市からもラインが飛んできて、当日は両親に断って迎えに来た晴久と共に家族より一足早く織田家に来ていた。
「月子ちゃん、晴久、いらっしゃい」
「市先輩、お邪魔します」
「よう、邪魔するぜ」
玄関まで来ると市が笑顔で迎え、月子は市がおせちの準備をしながらつまみを作っていると聞いて手伝う事にする。
晴久を振り返ると、予想していたのか信長公に挨拶したらなと笑って頷いてくれたのでふんわりと微笑む。
元就は市を攫った人物として、織田に着いて早々から信長公に連れ去られたと聞いて月子と晴久は顔を見合わせる。
と、そこに月子でも判る存在感で近づく影があった。
「信長公、親父や爺様共々お呼び頂きありがとうございます」
「私までお招きありがとうございます」
「是非もなし」
パッと振り返れば悪い笑みを浮かべた信長で、晴久が挨拶を口にするのに倣って月子も頭を下げればわしわしと撫でられた後、信長は晴久を首根っこを掴むようにして引きずって行ってしまった。
突然のことにされるがまま引きずられた晴久は、我に返るとちゃんと歩いてついていくからと叫んでいたが果たして聞き届けられたかは月子にも市にも判らぬことである。
二人顔を見合わせて、思わず吹き出してクスクスと笑うとじゃあ行こうかという市の先導で月子も手伝うべく台所へと向かう。
台所には市の義姉である帰蝶と兄である雹牙、黒羽が居ておせちやつまみを作っていた。帰蝶はともかく、雹牙と黒羽が台所に立っているのが意外に感じた月子がきょとんとした表情をしていると市が苦笑しながら手を引く。
「お兄さんたち、あれで意外と家事するのよ」
「市先輩と帰蝶さんがやってるんだとばっかり思ってました」
市に手を引かれて我に返った月子が素直にそう言うと、苦笑しながらも普通はそう思うよねと頷かれた。思われた方の雹牙と黒羽はどこ吹く風で相変わらず家事を手伝っているので、慣れているのだろうと思うとそれ以上は特に何も思わなかった。