第3章 砂漠の月151~172【完】
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期末考査などもあり、慌ただしくしていればあっという間に冬休みに入りクリスマス当日になっていた。
月子は晴久にデートに誘われていそいそと準備をするとコートを着て家を出た。
丁度玄関先に晴久が迎えに来ており、鉢合わせしてお互い顔を見合わせるとぷっと吹き出してから晴久が手を差し出し自然と手を繋いで歩き出す。
クリスマスで賑わう街中に辿り着き普段と変わらないデートコースを辿る中で、晴久が月子に尋ねる。
「ほんとにいつも通りで良いのか?」
「うん。クリスマスに特別なことも良いけど、今年は、いつも通りが良い」
「……月子が良いなら良いけどよ」
どことなく腑に落ちないという表情の晴久に、月子は嬉しそうに笑う。
月子にとってこの日常は得られると思っていなかったモノである。来年もその先も、こうしていつも通りに特別な日々を過ごせるのが嬉しいのだが晴久に説明しても理解して貰うのは難しい自覚もあった。
だからにこにこと機嫌よく笑って晴久の隣でいつも通りのデートを楽しむ。手に持った鞄とは別の紙袋は、渡したら驚くだろう物だし外で渡すには抵抗もあったという理由もあるがそれは言わぬが華だろう。
「晴久さん、アレやりたい」
「ん?」
「電車に乗って、途中の駅で気まぐれに降りるの」
「ああ、いいぞ。なら、駅行くか」
「うん!」
ウィンドウに飾られたクリスマスのディスプレイを楽しげに見ていた月子が、ふと顔を上げて晴久に言えば二つ返事で了承が返ってきて二人は駅に行くと丁度乗れる電車に乗り込む。
ICカードでの出入りなので切符を買う手間もない。気になった駅名で降りると丁度昼時で、美味しそうな匂いがするからと入った洋食店は有名なホテルの元シェフの居る店だった。
温かなビーフシチューやポトフなどのメニューからクリスマス向けのコース料理もあり、晴久にお任せした月子は折角だから贅沢しようとコースを頼む晴久に苦笑しながら頷く。
高級レストランではないが、味は確かでビーフシチューに入っている肉は口の中でほろほろと解けてとても美味だった。