第3章 砂漠の月151~172【完】
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ストーカー騒動も一段落した所で長い様で短い夏休みが終わってしまった。
新学期が始まってすぐ、月子の学年は進路相談が待っていた。月子のクラスの担任は、実は市の兄の片割れである雹牙である。
「で? 月子は何か考えてるのか?」
「えーっと……その、少しだけ」
「ほぅ?」
一人ずつ、誰も居ない教室または教員が持っている準備室で個人面談の為、雹牙は教師としてというよりは市の兄としてという雰囲気で希望を聞かれた。
僅かに戸惑いながらも小さく頷いた月子は、まだ誰にも相談していない内容をそろそろと口にする。
「その、昨年の文化祭で市先輩のクラスの衣装をお手伝いしたんです。それで、元々小野の家ではお裁縫くらいしかやれることがなかったからやっていただけなんですけど、裁縫が楽しいって気付いて出来ればそういう関係に行きたいです」
「そういえば、月子も裁縫やるんだったか……」
「はい。市先輩みたいに和裁まではこなせないんですけど、あれ以来作るのが楽しくてお人形とか、そのお人形の洋服とか作ってます」
「なるほどな。意図せず市と一緒の方向ってことか」
「え?」
ゆっくりと考えながら話す月子の話を静かに聞いていた雹牙は、思い出したように呟いたのでそれに頷けば小さな吐息を零されるのと同時に何かを呟かれた。
二度目の呟きは聞こえず首を傾げれば、手が伸びてきてくしゃりと頭を撫でられ誤魔化されたように感じたが悪い感じはなかったのでそのまま話が進められるままに答えていく。
大まかな方向性が出た所で、雹牙が机の上に出したのはいくつかの大学や専門学校の資料だった。該当の学部ページなどを開き机に並べると月子に見るように促す。
「まず、どういうことをやりたいかにもよるが。洋裁を極めたいなら、そういう専門学校に行く方が良いだろう。将来的にはどういう所に努めたいとかはあるのか?」
「うーん……就職するのかも、ちょっと判らないので」
「……ああ、そうか。まぁ、そうだな。そうだな、ならどういうことをやってみたいんだ?」
「洋裁もきちんと習いたいですけど、和裁も基礎からやりたいです」
「じゃあ、多分、この学校の附属になる大学にそのまま上がってく方が一番早いな」