第3章 砂漠の月151~172【完】
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最近、月子は徐々に怯えはじめていた。
元々は注目されることなど皆無の生活を送っていた月子は、晴久に憧れてから色々と変わっていった。
勇気を出して友人になった辺りから多くの視線を浴びるようになったが、大体は晴久ないし、他の二人も一緒に居る時なので自分が注目されているとは思っていなかった。
特に毛利家の養子として入ってからは必ず誰かしら傍に居た為、視線は傍に居る誰かに向けられたモノだと思い込んでいたのだ。
――コツ、コツ、コツ
久しぶりに一人で帰った日、背後から靴音が聞こえて思わず振り返ったが人影はない。
ただの気のせいか偶然近くを通った人の足音が聞こえたかと思ったが、月子が歩き出すとまた足音が付いてくる。
なんだかどこかで聞いた怪談話のようだが、太陽を背にして歩く道に差し掛かったところで大きく人の影が伸びてきて気のせいじゃないと知らしめる。
月子は怖くなってやや駆け足になると、なんとか辿り着いた家の中へ飛び込んだ。
そうして落ち着いてから振り返り、そういえば最近妙な視線を感じることがあったようなと思い至った。
自分に向けてではないと思っていたので気にしていなかったが、妙にゾクリと背筋が震えるような視線を何度か感じていた。
そこで一番最初に連絡を取ったのは晴久ではなく市だった。晴久には心配させたくないのと自分の勘違いだったらという可能性も捨てきれないため、同じ女性の市の方が相談しやすかったのだ。
LINEを送り、返ってきた返事に市もストーカーされていると聞いて驚く。そのまま晴久だけでなく義兄である元就や市の兄に当たる黒羽、雹牙にも言うことになりもっと早く言えと市共々怒られてしまった。
「どんな奴だったか……は、見てないか」
「う、うん。振り返るのが怖くて後ろ向けなかったから……でも、靴音は革靴だったと思う」
「革靴ってだけじゃなぁ……」
「髪は長ければ結んでて、短ければ坊主に近いと思う。影には坊主みたいな髪型しか映ってなかったから。洋服までは判んないです」
「なんか持ってたか?」
「うーん……家が直ぐそこで、怖くなって駆け足になっちゃったからそれ以上は判んない」