第2章 しあわせなゆめのはなし
「バタフライのことな」
「ああ!バタフライ!!」
俺が訂正すると、そいつはまたぱあっと顔を輝かせた。
「あのね!わたしテレビで見たことある!こういうのでしょ?!ざばーん!ざばーん!!って」
そいつは自信たっぷりに腕をめちゃくちゃにぶん回し始めた。その様子がおかしすぎて、気付けば俺はでかい声で笑っていた。
「ぶ!はははははっ!!お前、なんだよ、それ・・・はははははっ!!!」
「え?!え?!ちょ、ちょっと!!そんなに笑わないでよ!ひどいよ!」
「いや、わるいわるい・・・はははっ」
そいつは顔を赤くして怒っているが、ツボにはまってしまった俺はなかなか笑いが止まらない。
「もう!わたし、帰っちゃうからね!!」
「あー、いや待て。それは困る・・・悪かったって」
・・・しまった。さすがに笑いすぎた。帰られては困るから、慌てて謝る。
「・・・『ごめんなさい』は?」
「は?!・・・あー・・・ごめん・・・なさい・・・」
『ごめんなさい』なんて、親にも学校の先生にもしばらく言ってなかったが、そうしないとそいつは許してくれそうになかった。途切れ途切れにそう言って、少しだけ頭を下げておいた。
「・・・ふふふ、じゃあ許してあげる!」
「・・・おう」
俺が謝ればそいつはまたすぐに笑顔になる。くるくる表情が変わって面白い奴だな、と思う。
「・・・ねえ、わたし、お兄ちゃんのバッタ、見てみたいなあ」
また少し歩いていると、そいつがポツリと言った。
「あー、中学・・・は多分別々だろうな俺ら。高校は・・・あー、いや・・・」
俺のふたつ下なら中学で一緒になるかと思ったが、住んでるところが離れすぎてる。高校も、今はどうなるのかよくわかんねえ。
「ん?なあに?」
「俺・・・いつか世界で活躍するような選手になるから・・・そん時にテレビとか・・・会場とかで見てくれ、俺のバッタ」
・・・少し躊躇ったけど、俺はそいつに夢の話をした。普段は口にしない夢の話を。なぜかそいつにだったら話してもいいような気がした。
「・・・うんっ!!楽しみ!!!」
疑ったり馬鹿にしたりすることなく、そいつは俺の言葉に、今日見た中で一番の笑顔を見せた。