第2章 しあわせなゆめのはなし
俺より頭二つ分ぐらいは小さいそいつと並んで歩く。歩幅も全然違うし、俺よりだいぶ歩くのが遅いそいつに合わせてゆっくり歩く。
「・・・なあ、お前、何年生?」
ただ黙って歩いてるのもなんとなく気まずく、適当に話題をふる。
「この前5年生になったの。高学年だよ!」
そいつはよほど嬉しいのか、『高学年』のところを強調するように言った。だけど、言われた俺は正直驚いた。なんとなく身長とガキっぽい雰囲気から、3年ぐらい・・・下手したら低学年かと思ってたからだ。俺のふたつ下には、どうやっても見えなかった。
「う~、どうせ見えないって思ってるんでしょ・・・いいもん、別に。よく言われるから・・・」
何も言わなくても俺の気持ちが伝わってしまったらしい。そいつは、ぷうと頬をふくらませるとそっぽを向いてしまった。
「いや、まあ・・・そんなことねえぞ。ちゃんと高学年に見えるぞ」
それは嘘だが、せっかく案内してもらっているんだから、とそいつが望んでいるであろうことを俺は言ってやった。
「ほ、ほんと?!ふふふ、やったぁ!」
さっきまでのふくれっ面が嘘のように、パッと笑顔になるそいつ。それで機嫌をよくしたのか、今度は俺に話しかけてきた。
「ねえ、えっと・・・お兄ちゃん、は中学生?」
『お兄ちゃん』、その響きに少しくすぐったくなる。
「おう、中1」
「やっぱり!おっきいもんね。ねえ、中学って勉強難しい?」
「まあまあ・・・かな。まあ、普通にやってりゃ大丈夫だ」
少し不安そうに聞いてくるそいつを安心させるように言ってやる。そういや、そろそろ中学のことが気になる頃だったっけな、なんて思いながら。
「そっかぁ。あと・・・部活?もやってるの?」
「ああ、水泳部」
「わあ~!泳ぐのじょうずなんだ!すごいね!」
水泳部だからってみんな泳ぎが上手いわけじゃないが、瞳をキラキラさせながらほめられたら、悪い気はしなかった。
「ねえ、クロールとか泳いでるの?」
「いや、それも泳ぐけど、俺はバッタ」
「バッタ?」
思わず普段通りに言ってしまうと、そいつはきょとんとした顔をした。ああしまった、普通の奴はバッタなんて言われてもわかるはずがない。