第2章 しあわせなゆめのはなし
その日、俺は親に言われて、少し離れた町までお使いに来ていた。親戚の家まで行って頼まれた物を渡して、さあ帰ろうと思ったら書いてもらった地図をなくしていることに気付いた。そこで素直に親戚の家に戻って道を聞けばよかったんだと思う。だけど、一度辿って来た道だから、と俺は記憶を頼りに歩き出した。確かこんな風景だった気がする、確かこの犬がいる家の前を通った気がする、そんな『確か』が積み重なった結果・・・
「ここは・・・どこだ?」
俺は完全に道に迷った。
正直なんで迷ったのかがわからない。駅から10分ぐらいの距離だったんだ、親戚の家は。それなのに俺はもう30分近く、この知らない町をさまよっている。
「・・・どうするかな」
ぽつりと呟く。携帯はまだ持ってないから親に連絡もとれないし、人通りもほとんどないから、道を聞きたくても聞くことができない。
・・・仕方ない、適当にそこらへんの家のインターホン押して、聞くしかないか。
そう思った時、俺の横をちょこまかと通りすぎて行く小さな影があった。
「あ!・・・なあ!!」
深く考えるよりも前に俺はそいつを呼び止めていた。
「え?・・・わたし?」
そいつは立ち止まると、くるりと俺の方を振り向いた。
「おう。お前、このへんの奴だよな?」
「・・・うん」
そいつは、いきなり知らない奴に話しかけられて驚いたのか、少しおびえたような顔をしている。
「駅までの道、教えてくんねえか?」
「・・・ああ!それなら、えっと、まずこの道をまっすぐに行って、曲がり角を右でしょ。そしたらすぐまた右に曲がって次は左に・・・」
ただ道を聞かれただけだとわかると、そいつは警戒を解いたようだった。親切に教えてくれようとするが、駅までの道は複雑そうで、覚えられたとしてもまた迷うことが簡単に予想できた。
「悪いんだけど、駅まで案内・・・してくれねえか?」
「・・・うん、いいよ!」
そうお願いすると、そいつは笑って頷いた。