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【YOI】君と、お前と、バンケで。【男主&ユーリ】

第1章 新参者の僕


「何だよアイツ、俺よかオタベックと楽しそうにしやがって…」
礼之を取り巻く雰囲気が、いつもの穏やかさを取り戻したのを見て、ユーリは心底ホッとすると同時に一抹の寂しさを覚えていた。
あの日。
抽選会場を出た後でオタベックに遭遇したユーリは、そこで一緒にいた礼之を紹介するよりも早く友人が「隣にいるのは、お前の後輩か?」と尋ねて来た瞬間、ざわりと空気が変わるのを感じた。
礼之が、時折容姿が原因で不快な想いをする事があるのを知っていたユーリは、「こいつが『サムライ』だ」とオタベックに説明すると、些か慌てたように謝罪するオタベックを前に、渋面を隠せないでいる礼之を宥めるつもりで「オタベックだって、わざと間違えた訳じゃねぇだろ」と声をかけた。
ところが、そんなユーリの言葉に礼之は益々不機嫌な顔になり、「失礼します」と慇懃な態度で最敬礼すると、ユーリ達の前から去っていったのだ。
それまで穏やかだった礼之の豹変ぶりに、ユーリは訳が判らなくなっていたが、その後現れた礼之の振付師でユーリとも親交のある純のフォローもあって、ひとまず競技に集中する事に気持ちを切り替えた。
SPでの転倒が響き出遅れていたユーリだったが、そんな自分よりも先に滑走した礼之のFSを観た瞬間、胸の奥に熱いものがこみ上げてきた。
今季の集大成に相応しい、魂の込められた完璧な演技と、自惚れでなければ、演技を通して自分に向けられた真っ直ぐな想い。
「あれは嘘か?それとも、文字通り『演技』だったのか…?」
力なく呟きを繰り返していたユーリだったが、不意に視線の先で思いもよらぬ光景が映った直後、眉を逆立てた。

「…アレクシス。『アレク』と呼んでも良いか?」
「はい。何ですか?」
南からもそう呼ばれているので、礼之は自分と距離を詰めてきたオタベックに首肯した。
「瞼にゴミがついている」
「え?」
「そのままだと目の中に入りそうだ。俺が取るから目を閉じていてくれないか?」
言われるまま瞑目した礼之は、「少しだけ上を向いてくれ」というオタベックの声に素直に顔を動かす。
しかし、それから間もなく礼之の身体は、背後から何者かに勢い良く引き寄せられた。
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