第2章 新しい仕事
『あったかい』
腰掛けに座り直し、備え付けの洗髪料やら石鹸で身体を洗っていく。
『ふーさっぱり!』
湯船には、水は入っていたがきっと今はもう冷たいだろうと思い、そのまま上がることにした。
陸奥も朝餉とやらを作っているのでそろそろ完成する頃かもしれない。
浴場出てすぐの棚に積まれていたタオルを1つ拝借して身体を拭いていく。
『さぁてどれどれ〜』
着物を着るなんて初めてなうえ、現世ではとても高価で博物館でしかお目にかかれない代物だ。
私はウキウキしながら着物を手に持った。
『あれ、これどうやって着るんだろう』
悩んでも分からんものは分からん。
仕方がないのでとりあえず袖に手を通して羽織り、前を合わせて陸奥達に着せてもらうことにした。
着ていた服は空いていたカゴに放っておき、帯と帯留めだけを持って暖簾を潜った。
『……それで、どっちが広間だったかな?』
非常にまずい状況だ。
自分がどちら側から歩いてきたのか思い出せない。
仕方なくとりあえず歩くことにした。
しばらく歩くと縁側に出ることができたが、そっからが地獄だった。
見渡す限りの障子戸。
歩けど歩けど障子戸ばかり。
その終わりの見えない風景は、恐怖さえ感じられた。
『ちょっとー広間はどこよぉ〜』
昨日散々本丸内を歩いてある程度覚えたと思っていたが、広間が見つけられないパニックで視野が狭くなっていた。
『はあ…はあ…はあ…』
息を切らしながら若干駆け足で彷徨っていると、話し声が聞こえた。
「お味噌汁美味しそうです」
「ぼくもうおなかぺこぺこです。あるじさまおそいですね」
五虎退と今剣だ。
「ほがー慌てるな、ちっくとの我慢ちや」
見つけた!
やっと見つけた嬉しさで、勢い良く障子に手を伸ばした。
そして、指がブスッとなにかを突き抜ける感覚がした。
『?』
自分の手の先に視線を向けると、指が障子戸を突き抜けていた。
OH MY GOSH!!
「なんだ?」
私の指が障子を突き破る音で中の3人が気づいたようだ。
「あ!あるじさま!」
『へへへ…勢い余って指が刺さっちゃったよ…』
「心配はいらん!わしが後で直すき」
『……ありがとう、陸奥』
これはなかなかに恥ずかしかった。