第3章 写しへの接し方
「それは硯ですよ。それに墨を水と磨って墨汁を作るんです。それで文字は書けますよ」
『そうなんだ!ありがとう鯰尾』
こんのすけにもらった筆を含めた道具一式を持って広間へと戻る。
道具を受け取った陸奥は手馴れた様子で準備をし、さっそく札に名前を書いていく。
陸奥守吉行
五虎退
今剣
鯰尾藤四郎
山姥切国広
『こうして見ると皆難しい名前をしているね』
「ほうか?わしら刀にとっては普通なんやけどなぁ」
『そうなんだ。かっこいいね』
素直に思ったことを言うと陸奥は照れ笑いを浮かべた。
可愛い。
「それはなんだ?」
そこへ山姥切が戻って着た。芋ジャージを身に纏って。
芋ジャージでも美青年が着れば様になるな。
戻って来た山姥切に名札を掲げ、私は胸を張って言い放った。
『これはだな、この本丸の一員である証なのだよ!』
「主!かっこいいぜよ!」
陸奥に褒められてニヤけている私に対して山姥切の反応は悲しい程に薄かった。
「そうか。わざわざすまないな、写しの俺なんかに…」
出たよネガティブ発言。
『そもそも写しって何?』
「実物をなぞらえ、形状などを模倣して作られたもののことだ。故に、実物と比べられることが多い」
つまりはコピーということか。
確かに比べられるのは気分が良くないな。
『あなたのその憂いを取り除くことは、私にはできないかもしれない。でもこれだけは忘れないで。私はあなたを他と比べはしないし、この本丸内であなたを他と比べさせたりはしない。私が許さない』
山姥切を真っ直ぐ見つめて言うと、彼は布を両手で引っ張って顔を隠してしまった。
照れているのか?そうなのか?
『まんばちゃん?』
この際距離を縮めるためにあだ名で呼んでみることにした。
顔を覗きこんで呼ぶとバッと背を向けられた。
「見るな!」
その声音は照れているようだった。
陸奥と顔を見合わせ、思わずぶふっと吹きだしてしまった。
「笑うな!」
照れながら怒るまんばちゃんは可愛くて、陸奥としばらくの間笑っていた。
その後拗ねて部屋に引きこもってしまったが……まあ距離は縮まったと思う!
『そうだ陸奥。まだまんばちゃんに本丸の案内してないからお願いしてもいいかな?』
「おう!わしに任せちょけ!」
その後、やっと部屋から出たまんばちゃんは陸奥と一緒に本丸を見て回ったとさ。
