第3章 覇道の一里塚 上篇
さて、どうしたものか。
用意された部員3名用の部屋のあちらこちらに置き散らかされた少女達の手荷物を持ち上げ、一つ一つを部屋の隅に移して行く。
私は、こんな所に散歩をしに来たのではないがね。しかし、厄介だ。まさかとは思うが…あの男、何故あのように呼んだ?誰が漏らした?
幾分か顔を強張らせ、目を細める。手に持つ携帯電話の画面には馴染みの者よりの報せが届いている。
クノへ ハルマサ…確かに奥州の男か。にしては訛りのない男だ。…なるほど、只の気狂いではあるまい。ならば、奴の正体は。奸物(かんぶつ)とはこのような者を呼ぶのか。ジョゼフ フーシェのように潰し損なうととんでもない事態を招く者もいる。だが、あれは潰す手間を誤ったと言うべきか?暫しは様子を窺うとしよう。
ナカウラ アヤカ…やはり、学生か。しかし、あのような女学生が居て堪る者か。いつの世も教会とは御し難い物だな。それにしても、あの脚、あの躰、あの腕、あの胸、あの態度。…なるほど、全てがカモフラージュか。ならば威力偵察でもしてやらねばならぬが…ルーク(Rook)め、報せを受けておれば良いが。九戸は兎も角、あの女は今の情況では一番の目障りだ。十三宮を張らせておいて正解だった。知らずに動けば、私一人なら八つ裂きだ。しかし、ルークが居れば例え、〈従士〉と言えども如何様にでもやれるというもの。
足音がする。ドタドタと聞こえて来る。
…瀬田椿か。
携帯をズボンのポケットに仕舞い、強張った顔を軽く右手で掴んで少し揉む。そして、やや大きめに溜息を突いて、元に戻った。
さて、どうしてくれようか。…どうしてやろうか。
部屋の隅、人影が僅かに震えた。