第3章 覇道の一里塚 上篇
問われ方に妙な気を感じた。と共に、僅かに背筋を悪寒が走った。
「出羽の清水賢一郎(しみず けんいちろう)という大身はビジネスマンとしては一流なんだが、戦の才能は凡人だ。故に、その指揮は神前寺鳥海(しんぜんじ ちょうかい)なる僧侶が行っている」
「それが?」
「まあ、聞け。聞き給えよ。その神前寺は中立を以て平穏を保つ事に長年腐心して来た事で東京政府とのパイプが太い。そこで、東京政府に頼んで、傭兵を頼んだわけだ。日ノ本にこれ程の実力ある傭兵は二人といない。そんな奴だ」
「毛馬内と気田の乱坊はそれが原因って事?」
「左様。だが、出羽側もそれを察知してね。気田にその傭兵と一団を差し向けてきた。すると、あの気田が白兵戦で退却を余儀なくされた。気田の手打ちの剣が叩き折られたそうだ。傭兵の剣は、関孫六だそうだよ」
西連寺はそう言うと、暫し口を閉ざして綾香を見据えた。
綾香は自分の背筋を通った悪寒の正体が分かって来た。
「まさか、よね?」
綾香は念を押すように言葉を区切った。その顔は心無しか引きつってしまっている。
綾香の表情を冷めた目付きで見据えていた西連寺は僅かに首を――横に振った。
「いいや、まさかにあらず。傭兵の名は―『ヤシマ』だ。『ヤシマセイシロウ』という、違う事無き八洲一族の男だよ。…死んでいなければならない、存在のね」
「――――――――――――――」
綾香は耳疑い、言葉を失った。
「…やはり、忌名かな。は」
「・・・・・・・・・・・・・どうなっているのよ、これは」
西連寺は呆けたような表情で呟いた綾香から僅かに顔を背けた。
「知らん。聞かれても困る。だが、…必ずしも彼『ヤシマセイシロウ』が中浦の知る『八洲精士郎』とは限らない」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥はい?」
理解が追い着かない。こういう事を言うのだろう。