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RISORGIMENTO

第3章 覇道の一里塚 上篇


 西蓮寺はこれ以上、焦らす気はなくなった。

「さっさと答えを出そう。出羽は今火の海だ」

「何!?」

 驚嘆する綾香を見ないようにし、西連寺は更に続けた。

「君のお友達の南部家だよ。南部右馬御監殿率いる奥州探題軍が出羽を侵した。奥羽最北津軽屯所に兵と篭っていた小野好文殿が『日本人』相手に挙兵し、右馬御監殿がそれに呼応した。清水側も遅滞戦術をとっているが、それが癪に触ったのかな、毛馬内の赤備と気田の切田衆が住民巻き添えに暴れているそうだ。出羽の村々は南部軍の略奪と放火にあって散々な有様、だそうだ」

「誰からそんな話を…?」

「君の友人シャルロッテからね。さっき君宛ての知らせにあったんだよ。彼女、この近辺にいるようだ」

「他人の手紙を勝手に見ないで頂けますっ!?」

 綾香は抗議した。心中は他所にあるものの。

 シャルロッテ―中浦家の盟友、「黒いドイツ人」の筆頭格、フォン ブルゲンバッハ家の才媛にして怪人、シャルロッテ マリア フォン ブルゲンバッハ―が七宝院に居る、つまり彼女の事だから近隣に潜伏しているという事か。そうなると、先日の武田の攻撃に一枚噛んでいる可能性がある。だが何ゆえに?綾香は考えようにもイマイチ混乱して上手く働かない頭へ無理に情況を捩じ込みつつ、頭の内で現状を整理しようと試みた。

 現在、七宝院勢力は甲斐守護 武田信賢と戦闘状態にある。

 自分達が七宝院に来る前に出羽の清水という「日本人」の富豪は七宝院の座主と慧静を羽黒山に招いている。

 何時から発生したかは不明―それでも、坂東惣一揆が星川軍と武力衝突したのよりかは後であるのは疑いようがなく、更に言えば教会で「異端審問」調査をした際にはそのような話は聞いていなかったから、本当につい最近であろう。

 しかし、それでいて、出羽側が襲われている事態とは如何なる事か?毛馬内信繁の赤備と気田義宣の切田衆が敢えて暴れ回る程の事態、とは思いも寄らなかった。両部隊が刈田狼藉にさえ及ぶという事は南部軍がなり振り構わなくなったという事だ。となると、晴政の居ない九戸勢や血気に逸る鹿角郡司勢は更に暴れ回っている事だろう。

 幾らなんでもやり過ぎだ。綾香はそう思わざるを得なかった。

「しかし、出羽とてただやられるばかりではない。本題はここからだよ、中浦殿?」

「…どういう意味です?」
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