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RISORGIMENTO

第3章 覇道の一里塚 上篇


 茶化され続けて紅潮しっ放しの綾香を笑って見据えていた西蓮寺だったが、思い付いたように腰を上げると、自身の椅子の後ろにある机へと向かい、その上に積まれた書物から一冊を取り出して、今度は綾香の方へと向かった。踵を返してこちらに来た西蓮寺を見て漸く落ち着きを取り戻した綾香は、西蓮寺が差し出して来る書物を手に取った。

「これが、例の物です?」

 綾香は書を手に取り、外装を訝しげに見ている。やや色褪せた装丁、幾度となく開かれた為か、一ページ毎に痛みが見受けられている。経年劣化の状態からして些か古い代物である。

「ああ、違いない。言之葉学園一期生の〈紳士録〉だ」

 西蓮寺はこれを直接渡す為に、綾香を呼び付けたのである。そして、九戸晴政も綾香と同じく、これに用があった。

「よくこんな物が見つけられましたね、入道殿?」

 綾香は実際舌を巻いており、それは苦笑い気味の顔からも良く分かる。対して西蓮寺は意にも介さず、再び机に戻ってもう一冊のファイルを持ち出した。ファイルは市販の物で、書類を入れるビニール状の袋が初めから綴じ込まれたタイプの物であり、そこには多くの書類がはち切れんばかりに仕舞われていた。西連寺は敢えて見た目汚らしく物を扱う癖がある。他人が面倒を避けて開こうとしなくする為だ。

「こっちは…畿内軍閥と、東京政府の関係物です?」

「全く、その通りだ」

 〈紳士録〉を手にしたままの綾香に見せる為、西蓮寺はファイルを開き、ページ複数枚を一度に掴んで開き、彼女へと見せた。確かに、開かれたページには東京政府や畿内軍閥の要人の調査情報らしき書類が封じられている。

 流石の綾香も驚くしかなかった。このファイルが綾香に惜しげもなく見せられているという事は、未だ敷島政府すら旗色を鮮明にできない混迷・情報錯綜状態の中(天変地異直後に武力衝突を起こした坂東武者や武田氏はこの際無視する)、南海の雄 伊勢北畠氏の一門では既に粗方調べられているという事だ。どうせ、一部しか開示しないに決まっているが、それでもこの一部は、マスコミに渡せば、容易にスクープ・一面レベルだ。いや、それどころではない。極めて貴重なシロモノだ。
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