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RISORGIMENTO

第3章 覇道の一里塚 上篇


「おやおや、学しか知らぬ少女達に男の裸体を晒そうだなんて。肉親愛趣向から更に悪化しましたね、綾香」

「っ!お、おのれぃっ!」

 脅しても跳ね返される綾香は猿声でも上げんばかりに頭を抱え、紅顔して悔しがった。それを見ていた僧正が実に愉しそうな表情を浮かべていた事で、綾香の怒りに火が付いた。

 右足で強く踏み鳴らし、両手を頭から振り下ろして、

「ああ、もうっ!いいわ、メンドくさい!一発でトバしてやる(殺してやる)!」

 怒った。

「ああ、待って!頭は割ってもいいから、その椅子は勘弁して頂戴!そのアガリだけはやめて頂戴!」

 怒った矢先、右手で椅子の背もたれを掴み、綾香はそれを振るい上げた。僧正は初めて恐怖し、平伏した。

 平伏する男と椅子を片手で掴んで振り上げている女の構図がここにはある。

 平伏した僧正を怒気の籠った眼で見下すように見ていた綾香は怒って高まった息を整え、終いに溜息一つついて椅子を静かに下ろした。

「…その高級志向に物質主義っぷり。確かに大河内御所の人間ですね、西蓮寺入道様」

 久方振りに聞かされた自分の呼び名を聞いて、入道はやや顔を上げた。若干不満気である。

「侍従様と一緒にしないで下さらないかしら?まして、高級志向に物質主義だなんて!腐れ三好の壺好きじゃあるまいし、私は蜜壷だって嫌いなのに」

「っ!」

 再び椅子を掴んだ綾香にまたしても土下座して「命乞い」する入道。綾香もいい加減疲れて来たのか、掴んだ椅子を入道から引きずるように離して、再び腰を掛けた。

「…そのオカマ口調、今の流行りなの?空が落ちてきたせいで性別までおかしくなったのかしらね?」

 綾香は腕を組み、脚を組み、怪訝な顔付きで、入道を見下ろしている。怒りの鎮まりを見た入道はそっと溜息をついて平伏から立ち直り、再び椅子に腰掛けながら答えた。

「ああ、これは面白いからそう使ってみただけだ。この西蓮寺入道統家、常に時代の先を読んで動かなくては」

「その割には、流行の粗方を外して、ご覧の有様じゃない。復古主義華やかな今時でさえ、ヴィクトリア様式なんて正直カビ生えてるわよ」

「…カビ生えてるのは大衆の目だ。あの雑色上がりのブルジョワ共が。何がマティスだ。国立美術館の目玉にあんな物!共和国のいい恥晒しよ!これだから、祖法に集って市民ヅラする奴婢上がりどもはっ!」
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