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RISORGIMENTO

第3章 覇道の一里塚 上篇


 そう言えば、この世話役の女も足を止めて門に向き合っていた。学生達の行動に倣っただけか?それとも、この病気が治っていないのか?椿は促されて思い出したように歩みを始めた樹下と亜紀に釣られて歩く綾香を見て思った。

 七宝院の所有地の門をくぐり、案内されて歩んで凡そ10分。武田との交戦故か所々に分隊規模に纏まって警戒を怠らない小銃片手の僧兵達がうろついていたが、特に窮屈には今のところ感じてはいない。只、あのバスでの気分の悪さが僅かにも肉体へ疲労を溜め込んだようで、椿はさっさと荷物を下ろして一休み入れたかった。バスでぐったりとしていた湊なら尚更だろう。現に、湊の顔には疲れが見えている。前方の女が何やら気にして湊をしきりに見ていたのは、やはり背を摩った縁なのだろうか。

 学園の正門を全員が抜け終わり、校舎へと歩を進めて向かうと、そこでは紫色の法衣を纏った、高僧らしき男が出迎えていた。そして、高僧の後ろには別の色をした法衣を纏う幾人かの若い僧侶が横一列に並び、彼等の背後には校舎の中にも拘わらず、捧げ銃の姿勢で来賓を出迎える装備を身に纏う僧兵達13名が居た。

「ようこそ、仏法の学び舎へ。七宝院を代表して歓迎致しますぞ」

 数珠を懸けた手を合わせて一礼をする高僧と示し合わせたように、若き僧侶達も同様の所作を成し、その背後に立つ僧兵達は捧げ銃の態勢のままである。

「こちらこそ、突然も申し出にも関わらず」

「何をおっしゃいますか、樹下講師。講師が期待なされる気鋭の学生さん達なのですから、相応しい学問の場を提供するのが我ら七宝院の役目です」

 樹下の謙遜した態度を一笑に付したかのように快諾の弁を口にする高僧は高笑いでもしそうな顔であった。

「さて、そちらの方が学生さん達ですな」

 高僧は顔を樹下の後ろに控える亜紀達に向けた。樹下は僅かに後ろを向き、一瞥して合図した。

「はい、地学部部長の星河亜紀です。この度はお招き頂きまして誠にありがとうございます」

 一歩進み出て、名乗りを上げた亜紀に続き、

「部員の瀬田椿です、宜しくお願いします」

「部員、高瀬川湊、です。宜しくお願いします」

 と挨拶をした。

「こちらこそ。聡明さ、伺っておりますよ」

 高僧は微笑んで、亜紀達へ視線をやる。

「そして、背後にいるのは世話役の方だね…敷島人だったかな?」
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