第3章 覇道の一里塚 上篇
―甲斐 七宝院―
「学園の皆様、お待ちしておりました」
七宝院の僧兵が一人門にあって、甲斐甲斐しく一行を迎えた。
長身の身を法衣に包む一方で、袈裟を上から覆う防弾仕様のチョッキを着込み、腰元のホルダーには拳銃が収められている。将に、現世の僧兵である。
「こちらこそ、この時勢の中、しかも突然押しかけるようにしてしまってご迷惑をおかけします」
「何の。このような時勢ゆえ、学ぶべき事も多かろうと存じますよ、樹下教諭」
にっこりと笑う僧兵と謝意を伝える引率の教諭の姿を後ろから眺めていた地学部の学生達は、肩からズレ落ちそうな荷物を掛け直して待っていた。湊は結局吐かずに済んだ。それでも「世話役」の綾香は気にして、荷物を一つ持ってやっている。「運転手」役の九戸晴政は、バスの預かりを頼む為、別の場所に車ごと移動していてここには居ない。
「それでは方々、甲斐は仏法に守られし地、存分に星学研究に励んで下さい」
僧兵はにこやかにそう言うと、次に険しく顔を変え、門の裏に居る部下達に聞こえるように声を上げた。
「開門っ!」
校門が開いて行く。大きな木製の門戸は軋んだ音を立てながら、ゆっくりと開いて行く。
音を立てて開かれて行く門戸からは物々しい姿の僧兵達が踵を並べ、まるで来賓を出迎えるように、厳かな態度で一行を出迎えた。その奥の奥に、七宝院がある。
「なお、定時には皆で法華経の題目を行いますので、その際はお呼び致します」
僧兵は僅かに一行の方へ振り向いて言った。
「…面倒、題目何かよりタロットの方が…」
「湊、ここは黙っておけ」
ボソっと吐き出された危険な発言を椿は平静を装って制した。つい先程までの気分の悪さから少しずつ解放されて行ったからか、途端に鬱憤晴らしとばかりに毒付き出した湊の暴言に、案内の僧兵は気が付いていなかったようだが、傍らに居た亜紀と綾香は思わず肝を冷やされた。亜紀は溜息をつき、綾香は苦笑いを浮かべた。ただ思う所は同じである。
時勢故なのか、閉ざされていた校門が完全に開かれ、一行は七宝院へと入場した。僧兵達が凡そ10余騎、肩にサブマシンガンを担いで一行をそれとなく見据えながら出迎えた。開かれ始めた頃と変わらず、厳かな態度を崩しはしなかった。