第3章 覇道の一里塚 上篇
「脱いだらイイ物を持っている。男好きする身体だよ。全く、生娘なのが勿体無い。猥談一つで顔真っ赤さ。蹂躙された方が良い味が出るに決まっている」
「…一応聞いておくが、そういう趣向でもあるのかね?」
語気が強まる。3人の女学生を抱えている故、仕方のない話だ。
「まさか。私は正直言って女に興味はない。只、一般論を述べているだけだ」
「一般論?」
「ええ、人間に内在する『異性を蹂躙して、玩具にしたい』って欲求を言葉に出しているだけです」
「そんなサイコパスが一般論だと思えるのか。敷島の世情は暗鬱だね」
直線が続き、やや揺れが収まる。間もなく、七宝院学園の「支配域」に入る。晴政は視線を前に向けたまま、会話を続ける。
「いいえ、旦那。これは一般論です。御国に関わらず、人間誰しもが内心そう思っている。他人が蹂躙される様(さま)を待ち望んでいる。職場で評価されている上司や同僚そして後輩、幸せな美男美女カップル、スポットライトを浴びて、踊り、歌って、歓声を受けるアイドル、余生を穏やかに過ごす老夫婦、仲良く並んで夕方の買い物に出る母子の姿、一所懸命に働いて作り上げたマイホーム、初めての料理を誰かに褒めて欲しくてたまらない幼子の笑顔。他人の何気ない美しい姿は他者の羨望を受け、次第に邪さを孕んでくる。それが、本人が思っていると認識しているかいないかは別にしてね」
「どう思うんだ?」
「左遷される様を後ろから嘲笑される姿、夫の前で犯される美人妻、スキャンダルの果てに3流ポルノ女優に堕ちる元アイドル、孫の為に手を出した儲け話で騙されて、『欲の皮が突っ張った』と罵られ憔悴(しょうすい)する老夫婦、或いはボケて徘徊しながら失禁する無様な姿を晒す老人、買い物に気を取られて子供が道に飛び出ているのを知らず、轢き殺されて慟哭する母の美しい姿、両親を呼び込んで同居した挙句の家庭内不和、愛する女房のラブホテルにされるマイホーム、走って料理を持ってきた為に転んでカーペットを台無しにした大泣きする子供…どうです、何処かで思った事は?」
「…よく、わからないな」
また、笑いを漏らした晴政はスピードを落とした。七宝院の検問近くに来たからである。
「それは、旦那が高潔な人物か、或いは認識していないか、のいずれかでしょう。若しくは…単に先生が人間をやめているか」