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RISORGIMENTO

第3章 覇道の一里塚 上篇


 日高方面から兵を率いて熊野に配置させられていた鹿瀬鎮堯は咥え煙草で簡易な休憩所扱いの駅舎のベンチに腰掛けながら、兵の集結を待っていた。

 政庁和歌山城下から新内甲斐守義斯(あろち かいのかみ よしこれ)率いる騎兵衆が先に到着したのが1時頃。

 次に到着したのが武藤雲平景宣の騎兵衆で、これが2時。

 続いて大崎玄蕃景行(おおさき げんば かげつら)の南龍騎兵衆が予定よりやや遅れて3時半である。今は下間衆の到着を待っている。下間が後備として諸々の民政用物資を持ってやって来る手筈だが、これがやや遅れているという報告があった。もっとも、デモンストレーションの為に下間衆が様々な物資を持たされる事になったのには鹿瀬含め皆が内心同情していた為、特段不満を漏らすような事はなかった。それに、自軍に必要な物資が仮に足らないという失策が発覚したなら、紀州の兵は全て「現地調達」するだけである。特に赤羽御所が困るだけなら大した話ではない。紀州軍の頭達は―硬骨漢の武藤以外―多かれ少なかれ、皆そう考えており、これが「支援」の実態であった。

「下間はもう間もなく来るそうだ」

 喫煙中の鹿瀬に後背から話しかけて来たのは大崎玄蕃景行である。

 精悍な美青年、と思わせる逞しく引き締まった肉体に若干深めに彫りの入った顔をしたこの男は、しかし、その左手に大太刀を握って、使い古した感のある装甲具を着込んでおり、既に只者ではないと周囲に思わせる気配を漂わせていた。元居た世界では「アッティラの鎚」だとか「アラーへの反逆者」だとか「主の敵」などと言われ、必要以上に(と敵からは見える程)敵兵を殺めて首を晒した事で「人喰魔」とさえ言われた。そんな風評の立つ男ゆえに、せっかくの端正な顔立ちも却って危険さを感じさせてしまっていた。

「そうか。他の奴らも知っているのか?」

「ああ。知っている。こっちにも来るだろう。武藤など、早く切り結びたくて堪らんようだからな」

「勇んでくるだろうな」

 短くなった煙草を足元に落とし、ベンチから立ち上がるついでに踏み潰した鹿瀬は黒の軍用コートのポケットに両手を突っ込み、大崎の傍らを過ぎて駅の入口近くの張り紙を見詰めた。
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