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RISORGIMENTO

第3章 覇道の一里塚 上篇


 雨音を聞いても懐かしい。京の夜道に危ない目にも遭ったが、あの方がそこに居て、私を守ってくれた。その日は確か雨で、襲われて腰の抜けた私を無理に起こさず、ただ己の傘を私に寄越して、無言で闇に去った。その後の、またその後も、あの方とは多くの時、多くの場所で出会って、別れた。

 常に多くを語らず、それでいて多くの事を私に残して行った。こういう仕事をしていると、色んな筋から様々に話を聞く。その中に、つい、あの方の事も探してしまう。あの天変地異の後においても、だ。

 天変地異の中、京にて一乗谷縁の者の安否を認めるのに奔走し、その内に、あの方の事も聞いた。坂東の父祖の地を舞台に、異世界の者共と斬り結んだと云う。相手方の、星川という女将軍は、中々に手練た技を以て宇都宮の兵の追撃をかわして兵を下げたと云う。今後、坂東は大いに荒れるだろう。聞き及んだ誰もがそう思ったわけだが、その矢先に聞き及んだのは、

「和睦…か」

 星川と東京の日本政府が連合し、坂東の武者達と争うという構想だったようだが、何と、星川を通じて先日に交戦していた宇都宮側から和睦を提案して来たと云う。

 暗鬱な気が心の内に起こる。

 平穏になる事に異存はない。しかし、調査の内に聞き及んだのは、この話を宇都宮に持ち掛け、「和睦」に奔走している者の名前である。

 大関資増。坂東那須七騎の一つ、大関家の男。そして、彼が坂東に下向する直前に会っていたと云う人物が、大河内具家。ここ伊勢を支配する伊勢守護北畠家の親類衆筆頭格。

 「日本人」を名乗る人々は知らないのだろう。知らなくて当然だ。「敷島人」とて、この二人について、全ての事を知っているわけではない。しかしながら、大関と大河内と聞いてその両人に思い当たる事が僅かにもあるならば、彼等を只人と想い、善行を行うに際して、それが無償或いは名誉欲を満たされる事のみによって行われるとは決して思わないだろう。このような両人の名前を異世界にまで轟かせるような事はあってはならないと個人としては強く思うし、そうであるべきだ。

 だが、それはもはや無理であろう。この組み合わせは最悪である。この地に居れば特に良く分かる。
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