第1章 流転
延々と続く「雨降る砂漠」。恐らく、そう多くは変わる事のない景観。ここは日共崩壊の契機になった、小惑星の破片である隕石が落下したクレーター、禍津日原(まがつひはら)。「帝都の流刑地」と呼ばれるこの場所には、権力闘争の敗北者から指名手配犯、単なる変わり者から世捨て人に至るまで、社会の主流派の枠から外れた人々が集う。
そんなこの地を、どうにか再建する事に成功したクレーター復興庁、現在の禍津日原総督府は、治安の回復を誇示したいためか、学校まで誘致してしまった。
雪花晴華
「先生って、西洋史も得意ですか?教えて欲しい問題があるんです」
大牧実葉
「どこが分からないの?」
禍津日原第四学校の教員室では、いつもの如く雪花晴華(ゆきばな はるか)が地理科の大牧実葉(おおまき みのは)から、宿題の答えを聞き出そうとしていた。
雪花晴華
「このページで、中世のヨーロッパなんですが、メシア暦751年に滅亡した王朝って何ですか?」
大牧実葉
「ああ、それは『メロビング朝』が答えよ」
雪花晴華
「『メロビング』って国が滅んだんですか?」
大牧実葉
「いえ、国の名前は『フランク(Frank)王国』通称フランス(France)で、その国王になる一族がメロビス(Merovis)家だったんだけど、カール(Karl)家のカロリング朝が王位を奪っちゃったの」
雪花晴華
「そうなんですかー」
大牧実葉
「ところで、私は地理の先生だから訊くけど、フランク王国って今のどの辺りにあったか分かる?」
雪花晴華
「フランクフルトが食べれる所ですか?」
大牧実葉
「…えっとね、ガリア(Gallia)を中心に、ドイツとイタリアを含む地域よ。覚えておきなさい」
雪花晴華
「はーい」
間宮歩
「大牧先生ー!」
自然科非常勤講師の間宮歩(まみや あゆむ)が駆け付けた。
大牧実葉
「どうしたの、間宮さん?」
間宮歩
「通学路から外れた危険区域に、女性が倒れているとの連絡がありました!」
大牧実葉
「今行くわ。とりあえず、保健室で保護しましょう」