第3章 覇道の一里塚 上篇
清継は内心答えを分かっていた。大牧も言葉を濁しただけだ。広沢も秋月も分かっていた。
「…空が…落ちてきた…日です」
「・・・・・・・あ、あぁぁぁぁぁ」
清継は大牧の方から自然に手を離し、両腕を上げたまま後ろへ下がって行って、そのまま後ろへ尻を突いた。
「閣下!」
「泰邦様っ!?」
広沢が駆け寄り、大牧も思わず清継へ走り寄った。清継はまるで魂が抜けたかのように尻餅を突いたまま動かない。
初めて見る清継の表情に大牧は目を疑った。放心、腑抜け、芯を抜かれたような清継に、長年の付き合いである広沢や秋月も言葉を失った。
「やっ、泰邦様っ!?泰邦様っ!!」
大牧が今度は清継の肩を掴んで身体を揺する。しかし、清継の反応はただ力の向きに合わせて身体を前後に揺らすだけだった。
「し、しっかりして!しっかりして下さい!泰邦様っ!」
思いっ切り大牧は前に押し出すように揺らした。すると力の入っていない清継の身体はそのまま力の方向へ押し出されて倒れてしまった。
「あっ…」
大牧は思わず押し倒した腕を胸元まで引っ込めた。そして、押し倒れた主の身体の先にいる従者と目が合い、決して押し飛ばそうという意思がなかった事を両手で、胸元近くで、それらを横に小刻みに振って示した。
「・・・・・k・・・・・」
倒れた男から何かが漏れ出した。それに反応した大牧も従者二人も清継に寄る。
「閣下!閣下、お気を確かにっ!」
「泰邦様っ!?泰邦様、大丈夫ですかっ!?泰邦様っ!?」
「……き……」
清継の顔は既に蒼白であった。蒼白で、生気が失せたような、虚ろな目を携えた表情に、会津の長たる面影はない。そこにいるのは、只々絶望に胸を打ち抜かれた、一介の男だった。
「…泰邦様…」
大牧は最早、名を呼ぶくらいしかできなくなった。清継の色を失った瞳から流れ出る水の粒が頬を落ちて地に染み込んで行く。仰向けに倒れたままの清継から無意識に身体をやや離して、三人は壊れた男をただ見詰めるしかなかった。
「き‥きよ…」
そして、何もかも失ったように、清継は、娘を攫(さら)った、曇りなき空へ
「きっよっ、こォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
叫ぶ以外になかった。