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RISORGIMENTO

第3章 覇道の一里塚 上篇


 語気が強く感じられる。恐らく、少なからず偶然立ち寄って見たこの状況に、焦っていたのだろう。清継はそう思った。

 智尊は引っ張って下げられてもなお清継を見ていたが、大牧に2、3度引っ張られて漸く踵を返した。礼もなく、只々不審げな視線を残して行った。清継は辟易するような顔で息をついた。大牧は智尊が去って行くのを見届けると、清継に向き直り、深々と頭を下げた。

「突然の御無礼申し訳ありません、閣下」

 大牧という教師は常に律儀だ。娘の入学手続き時に偶然顔を合わせて以来清継は好感を持っていた。

「顔を上げて下さい、先生。これしきの事でそのような事をされては、却ってこちらが申し訳なく思いますよ。…あれは敷島人ですかな」

「はい、そうです。ウチで取り敢えず雇って用いていますが…」

 清継の声に従って頭を上げて答えた大牧であったが、しかし、清継の顔を見た途端に目を逸らし、再び大きく頭を下げた。

 これには清継も驚くしかない。背後の二人も面喰らった様子である。

「どうなされました、大牧先生?……大牧先生?」

 再び下げられた頭。動かない姿。清継は彼女の様子から異常を感じた。清継は背筋に嫌な汗をかき始めているのに気が付いた。この嫌な感覚は、決して、忘れられるものではない、あの日を、思い出させる。清継は頭を下げっ放しの信頼する教員に、答えてもらわねばならない事が出来てしまった。たった今。

「…先生、一つ窺いたい事があります。あの、む、むすっ…娘…娘に、ついて、ですが…」

 声が震える。喉が異様に乾いて来て、それでいながら、身体中からは汗が垂れて来ている。油混じりの汗が服の裏地を濡らし、嫌な湿り気を含んだ生地が清継の背に張り付いて気持ちが悪くなる。それは、平静を保ちながらも心の奥底から胸板を突き上げる、清継の苦痛。二度味わいたくなかった、苦しみ。

「せ、せんせい…先生っ!」

 清継は頭を下げ続ける大牧の肩を掴み、押し上げるようにして彼女の体を起こした。清継は急くようにして無理に大牧を起こしたが、その結果見えたのは、無理に起こされてなお沈痛な顔を浮かべる若い女だった。

「……や、泰邦‥さんは…」

「きよ‥こ‥は‥?」

「行方が…あの日…以来…知れなくて・・・・・、も、申し訳ありません…」

「…あ、あの日…?」
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