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RISORGIMENTO

第3章 覇道の一里塚 上篇


 清継の腰には銃がある。そして、軍服の裏地にも一丁備え付けてある。腰の物はアメリカ製の輸入拳銃M1911、裏地には、愛用のトンプソン コンテンダーである。制止した男は清継の両方の物を見抜いた。只者ではない、と清継は見抜いた。この学校にはこのような警備員は居なかった。そしてまず、警備員としての格好をしていない。まず、信用ならない。

「わかった。力づく取らせてもらう。構わぬな」

 男は構えない。だが、両脚に力が入っているのは見て取れた。相手から「良くない気」を感じた。これは少なくとも、真っ当な人間或いはゴロツキ上がりの輩で感じられる代物ではない。間違いなく、人間として一つ足を踏み外した者。長年、この手の人間に狙われて来た清継には良く分かった。

 最早、清継は答えない。背後の二人も主人の様子から、そして相手の姿から察し、同様に覚悟を決めたのか腰の物に手を伸ばす。

 静寂が四人を包む。誰かが動けば事が始まる。誰が動くか。機先を制した方が勝つ。人数の上では清継達が有利だがこの程度の数的有利は、相手次第では幾らでも覆される。その相手が、この男かも知れない。

 清継は先に動く事に決めた。手早く、早期に一撃を与えて決着を付ける。愛用のコンテンダーではなく、まずはM1911を用いる。裏地の切り札はそう簡単には使えない。彼は後を考えねばならない存在である。本気は出すが、全力は出せない。

 対する男はなおも構えず、じっとこちらを見ている。只々清継の目を見ている。頃合だな、そう清継が思ったのに対して、相手も悟ったのか目が更に開きつつある。なら更に早く!清継が動かんとした時だった。聞き覚えのある声が耳に届いた。

「何をしているの?崔智尊、やめなさい!」

 大牧先生、と男は答えた。しかし、目すら動かさず、声だけの反応に留めている。その目はなおも清継を捉えている。

 早足に近寄る大牧を視界に入れた清継と崔智尊(さい ちそん)と言われた者の間には、まだ緊張で満たされていたが、清継は、敢えて戦意を引っ込める事にした。娘の先生がそこに五体満足に居るなら、娘は大丈夫なはずだ。そして、その先生の声に反応したのなら、まず当面の敵にはならないはずである。

 大牧は足取り早く、智尊の傍らまで来て彼の左腕を掴み、そしてやや力を込めて引っ張った。

「戻りなさい。智尊、戻って」
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