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RISORGIMENTO

第3章 覇道の一里塚 上篇


 総督との会見を終えた清継の足取りは軽かった。娘に会えるからである。実際、この出張は親子の再会、という第一目的の副次に他ならない。清継の敬愛する殿下、西宮堯彦は清継との「謁見」において、それを茶化すように述べていた。泰邦清継という存在について知る者は、乱世に名を挙げた先代 清明の後継者、としてよりも、どうにもならない親馬鹿振りを評していた。清継の愛妻家振り、家族想いの強さは、保守的思想傾向にある者には正しく模範的ですらあるが、時に職務について不抜けた様を見せる清継ゆえイマイチ歓迎しきれない点でもある。尤も、本人にとってはどうでも良い事ではある。

 とは言うものの、表立っては、副次の目的がクレーターまで来た主たる理由でなくてはならないのである。清継とて適当に済ませて来たわけではない。鷹司智子に通されて、「謁見」した清継は、敬愛する主上が世に憂いを見せているのに苦しい想いをしさえしたのだ。

 クレーターに迷い込んだ多くの流民を囲い込んで、この天変地異においても自派の党勢拡大に西宮堯彦を始めとした首脳部は執心していた。しかしながら、敷島人という異世界の存在の流入による混乱はここクレーターにおいても変わらず、堯彦に従う廷臣達によれば、堯彦自らが引見して徒党に組み入れた敷島人、上野正斉率いる鹿取隊の武人達が示威的な警備活動を繰り返す事で、日本人・敷島人の両方を震え上がらせて両者の乱暴狼藉を戒めていた。一方で、クレーターの裏を担うAB団が流入して来る不穏分子に始末を付けて、どうにか安定を生んでいる。薄氷を踏む統治が列島各所で行われている。それはここクレーターにおいても、清継の支配する会津でも変わらない。

 清継自身は東北にて相馬氏の攻撃を受けていた事もあり、敷島人への警戒心というのは極限まで高まっている。しかし、上野正斉が西宮堯彦に臣従したように、主の徳目次第では、無為に流血を招かずとも解決する方法はあると言える。そう考えた。勿論、上野にどのような目的があるのかは分からない以上、気を抜けない状態であり続けるのは結局変わらないが。

 「謁見」を終えた後で、念のため上野とその軍勢について警戒を厳にするよう落合に釘を刺しておき、御殿より退去した清継は、いよいよ主目的のために足取り軽くして愛娘の居る禍津日原第四学校へと向かった。
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