第3章 覇道の一里塚 上篇
小声で話すため、上野は彰の顔に近付いて話した。すると彰はくすぐったそうにしている。
「何だ?」
「耳に息かかるってば、もう」
「真面目に聞け」
茶化したように笑う彰に上野は顔をやや顰(しか)めた。それでもクスクス笑うのをやめない彰を見て、上野は観念したのか、少し顔を離し、声を先程より若干大きくして続けた。
「今は常陸の方へ移動している。空軍と合流するんだ」
「やっぱり、和平協定中でも警戒するか」
「であるな」
「ふーん。鹿之助クン達も?」
「そうだ」
「ACSであんまり動き回るのは賛成しないな。ただでさえ、薪が足らないのに」
「仕方なかろう、陸で動かせば流石に警戒される」
「だから、小笠原と高遠に頼めばよかったのよ」
「時間が無いんだと」
彰は軽く溜息をついた。
「そんなものか」
「そんなもんだ」
沈黙する二人。二人はただ向き合ったままである。
暫くして、口を開いたのは彰だった。
「ねえ、真美元気かな…」
「荻原が見てくれている。大丈夫だろう」
「そういうんじゃなくて」
彰は少し語気を強めた。上野は軽く息をついた。
「アイツはお前が考えているよりは強い。いい加減、子供扱いはよしてやれ」
「だって、まだ14の子よ?」
「お前は14の時、既に一端のギャンブラーだったろう」
「そりゃ…」
「案ずるな」
上野は少し顔を崩した。彰が不安げな顔をするのに対して、やや微笑んだように。
「荻原には300騎を与えて周辺を見当たらせている。四宮が今は巡視役だが、特にあの辺りを回らせておいている」
彰は目を瞬いた。今度は上野が怪訝な顔をする。
「何だ、おかしなモノでも見た様なツラをして」
「公私混同じゃないの…珍しい‥ってかどうかしたの?熱でもある?」
「…今から、全軍下げてやろうか?」
待って、待って!と慌てる彰に上野は溜息をついた。
「お前に前みたく取り乱されても困るんでな」
「ちょっと…あれは…」
口篭り、些か恥ずかしそうにする。
「いずれにせよ、だ」
「・・・・・・・」
「余り心配してやるな。却って向こうが気にするぞ」
「…風の便り?」
「まあ…そういう事だ」
「優しいのね、衛二」
「黙れ。つまらぬ事を」